先日、当社は住宅地において大型マンション工事に着手しました。
そうしたところ、付近住民の一人が工事現場までやって来て、現場監督 者に対し「工事がうるさい。ただちに工事を中止しろ。」と怒鳴り、数日後には「工事を中止しないなら裁判所に工事の差止めを求めるぞ。」と言ってきました。
このような住民の請求は認められるのでしょうか。
また、当社の工事によって生じる騒音は、法的にはどの程度まで許されるのでしょうか。
(回答)
1 近隣対応・環境リスク
会社も単に収益を上げるだけではなく、地域との関わりの中で、地域に愛される会社づくりをしていく必要があります。
しかし、昨今は、クレーマーのところでもお話ししたとおり、行き過ぎた個人主義、利己主義がはびこり、自らの要求だけを押し通そうとする人が増えています。
会社は、地域社会の調和を図りつつも、地域住民の要求を見極めて毅然とした対応をとることが求められています。
2 受忍限度
人が生活する社会において建物はどうしても必要なものです。そして、建物を建てる際に、ある程度の騒音や振動が発生することはどうしても避けることができません。そのため騒音や振動が人に不快感を与えるものだとしても、これを生じさせる工事を行ってはならないということになると、およそ会社が成り立たなくなってきます。
そこで、法は、付近住民が社会生活上受忍すべき範囲として「受忍限 度」というものを設定し、この「受忍限度」を超えた場合の騒音や振動についてのみ、付近住民に法的な救済を与えるという立場を取っています(受忍限度論)。
3 行政法規
また、この受忍限度の判断に入る前段階として、一定の行政的な規制もあります。
騒音規制法や振動規制法は、住民が集合している地域を規制対象地域と指定し、その指定地域内で特定建設作業(著しい騒音を発生させる建設作業として政令で定めるもの。具体的には、杭打ち機、びょう打ち機、さく岩機の使用やパワーショベルなどによる掘削作業など)をする際には、市町村への事前の届出義務と規制基準を設け、これに従わない場合は行政罰(改善勧告、改善命令、改善命令に従わない場合には罰金)を適用するとしています。
また、このような特定建設作業以外の工事についても、地方公共団体が独自に条例で規制を設けている場合もあります。
そして、これらの行政的な規制に抵触している場合は、受忍限度の検討に入るまでもなく工事は修正を求められることとなります。
他方で、工事業者としてかかる行政的規制をクリアしていても、なお住民側からクレームが出されることがあります。そして、その場合は上記の受忍限度の判断になります。
4 回答
貴社が行政上の規制をクリアしている以上は、住民が受忍限度を超えた旨を立証しない限り、住民側の言い分は裁判では認められないと考えられます。
とは言え、貴社の社会的責任に基づき、貴社は説明責任を果たして、住民側のコンセンサスを得られるよう最善を尽くす必要はあります。