当社はあるお客様の依頼で,築50年以上経つ老朽化した2階建ての建物をリフォームしました。当初はこのお客様の呈示された500万円の予算で,1階をギャラリー兼キッチン,2階をアトリエ工房,2階小屋裏にロフトを設置するリフォーム工事請負契約を締結しました。
その後,お客様の要望で2階小屋裏のロフトは3階部分に変更となりました。本件では,このお客様の要望がデザイン中心だったので,外観ばかりリフォームをして,構造部分についてはほとんど手をつけませんでした。
そうしたところ,工事終了時にこのお客様から違法建築の欠陥リフォームだとのクレームをつけられ,請負契約の解除及び原状回復費用等の高額の損害賠償請求をされています。
当社はこのお客様の要望で今回の工事を行ったのに,責任を負わねばならないのでしょうか?
(回答)
1 注文者の要望による欠陥リフォームとは
建築基準法6条では,新築や大規模な増改築には建築確認申請の提出を求めていますが,これに該当しない小規模リフォームには,特段建築確認申請をすることを求めていません。
このことから,業者の中には注文主の要望に従って建築基準関係法令に気を使わずに工事を行ってしまい,その結果,構造欠陥のある建物にしてしまった,という事案が発生することがあります。
2 注文主の指示と法令遵守の優位
さて,相談の事例についてですが,大阪地裁平成17年10月25日判決で,裁判所は原告の主張を認め,契約解除と債務不履行に基づく損害賠償請求を認めました。
被告(建築会社)は,(1)構造上の安全は契約内容となっていなかった,(2)注文主の求めに応じた結果として建築基準法違反の状態が生じたのだから,注文主が建築基準法違反を主張することは信義則上認められない,と反論しました。
しかし,裁判所は,(1)に対して,本件請負契約においては,「既存建物部分の構造も強化して3階建ての建物全体について構造上の最低限の安全性を確保するのは当然の前提であった」とし,(2)に対しても,「原告らの主張が信義則に反するということはできない」として,建築業者のいずれの反論も退けました。
その結果,契約解除による原状回復請求権に基づく559万円と,債務不履行による損害賠償請求権に基づく解体工事費用および再築工事費用の一部と慰謝料・弁護士費用を合わせた約275万円との合計834万円もの賠償を命じたのです。
3 建築業者の法令遵守リスク
この判決では,いかに注文主の要望といえども,建築基準法に違反するような態様でのリフォームまで合意内容とするのは困難であるとの裁判所の判断が示されたといえます。
このように,専門家たる建築業者としては,建築基準関連法令に常に注意を払っていないと,たとえ注文主からの要望に応じたのだとしても,大変高額の賠償責任を負わざるを得ない場合があることに,十分注意が必要です。