給料と損害賠償の相殺は可能な要件

(質問)
 当社の従業員が重過失によって,会社の備品を壊してしまいました。
 その弁償として,当該従業員の給料から備品相当額を天引きしたいと考えていますが,法的に問題はありませんか?

(回答)

1 損害の全額を請求できるか。
 中小企業の経営者の中には、会社の従業員が過失によって、会社の商品を損壊した以上、会社は不法行為に基づき、商品の時価相当額全額を損害賠償請求することができると考えていらっしゃる方がおられます。
 しかし、裁判例では、会社は従業員の労務の提供により利益を上げているということもあり、従業員の行為が故意、重過失でなければ、損害の全額は請求できず、大体2~3割しか請求できないとされています。

2 賃金の全額払いの原則と相殺合意 
労働基準法第24条第1項は、法令に特別の定めがある場合(所   得税の源泉徴収など)などを除き、賃金はその全額を支払わなければならないと規定し、賃金の全額払いの原則を定めています。
 これは、会社が一方的に天引き等をすると、労働者の手取り給料が減   ってしまい、労働者の生活を不安定にしてしまうので、これを防止するためです。
 したがって、ご質問のケースでも、貴社が一方的に給料から商品相当額を相殺することはできないのが原則です。これに違反すると、30万円以下の罰金に処されるリスクがありますので(同法第120条第1号)、注意が必要です。
 もっとも、判例上では、給料からの一定額の相殺について、従業員の合意があり、それが労働者の自由意思に基づいてなされたものであると認められる合理的な理由が客観的に存在する場合には、賃金全額払いの原則に反しないとされています。

3 回答
 貴社は、従業員の給料から損害賠償額を相殺することについて、労働者に十分説明を行って、そのことを労働者に納得してもらった上で、書面による合意書をとっておけば、商品相当額の損害額の天引きが許されることになります。
 そして、損害額が大きい場合は、例えば2万円を10か月に分けて相殺するといった方法が必要になります。