当社の従業員が、建設現場で作業中、高所から落下して死亡しました。
落下に関しては、当該従業員にも過失があったようです。
ところで、当社は、すぐに労災保険の手続きをして、遺族には遺族補償給付等が支給されたのですが、この度、遺族から、安全配慮義務違反に基づく損害賠償の請求をされました。
当社が負う賠償責任は、どのような内容のものなのでしょうか。
(回答)
1 労基法上の責任と民法上の責任
労災事故が発生した場合の会社に生じる損害賠償責任については、労基法上の責任と民法上の責任の二つに分けて考えなければなりません。
従業員に労災保険給付が行われた場合、会社は、労基法上の損害賠償責任については免れます。
しかし、当該従業員に労災保険給付額を超える損害が発生した場合、その超える分の損害については、会社は、民法上の損害賠償責任を免れないのです。
2 損害賠償責任を負う項目は
では、会社が免れない損害賠償責任の中身とは、どのようなものなのでしょうか。
従業員が死亡した場合の死亡慰謝料や、入通院した場合の入通院慰謝料、入院雑費、通院交通費、後遺症が遺った場合の後遺障害慰謝料、訴訟になった場合の弁護士費用等については、そもそも労災保険給付が行われませんから、会社が全額負担することとなります。
また、休業損害、死亡逸失利益、後遺症逸失利益、治療費、付添看護費、葬祭費については、これらに対応する労災保険給付があるものの、損害額が給付額を超える場合には、超える分を会社が負担しなければなりません。
3 特別支給金は会社の賠償額の計算において考慮されない。
なお、労災事故に関して従業員が受け取るものには、休業特別支給金、障害特別支給金などの特別支給金もあります。しかし、これら特別支給金は、福祉増進のためのもので、損害の填補の性質を有さないとされています。
したがって、従業員が特別支給金を受けたからといって、会社の賠償額の計算に際して、これらの金額を控除することはできません。
4 過失相殺と労災保険給付の控除の前後
ところで、本件のように労災事故に関して従業員に過失がある場合、会社が負うべき賠償額の計算に際して、過失相殺と労災保険給付額の控除のいずれを先に行うべきでしょうか。
仮に損害額全体が1,000万円、労災保険給付が200万円、従業員の過失割合を25%とした場合に、会社の損害賠償額が、過失相殺後労災保険給付額を控除すると550万円になり、控除後相殺すると600万円になります。この点、判例では、過失相殺後控除を行うべきとされており、会社には有利な判例になっています。
5 回答
貴社は、死亡慰謝料、後遺障害慰謝料、労災給付でカバーされない死亡逸失利益、後遺症逸失利益等のさまざまな項目の安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負うことになります。中小企業は、ケースによっては、数千万円の安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負い、会社の規模、業績によっては支払いきれない損害賠償額に上るリスクがあります。
労働災害は、中小企業にとって極めて大きなリスクと捉えて、安全教育・安全措置のさらなる徹底と、労災上乗せの損害賠償責任保険に加入すべきです。