当社は材木業者(A)です。建設業者(B)から建築資材の注文を受けて納品しましたが、上棟の後にこの建設業者(B)が当社への材木代金を支払わないまま破産手続きを開始してしまいました。
建設業者(B)は注文主(C)に対し請負代金請求を有しているので、当社(A)が請負代金債権に物上代位権を行使して債権回収を図ることはできないのでしょうか。
また、建設業者(B)が注文主(C)から工事の一環として重機の設置を依頼され、当社が重機を搬入した場合に、建設業者(B)が破産手続きを開始した場合はどうでしょうか?
当社(A) → → → 建設業者(B) → → → 注文主(C)
動産売買代金債権 請負代金債権
(回答)
1 動産売買の先取特権と物上代位
民法321条は、「動産の売買の先取特権は、動産の代価及びその利息に関し、その動産について存在する。」と規定しています。
すなわち、動産を売却した売主は、売買代金債権を担保にするために、売却した動産自体に先取特権という担保を有するのです。
また、同法304条1項本文は、「先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債権者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。」と規定しています。
これがいわゆる物上代位権という権利であり、売主が売却した動産が例えば転売によりお金に変わった場合に、売買代金債権の担保のために、動産が形を変えた価値そのものであるお金を渡すよう請求できる権利です(法律的には「交換価値を把握する」と言います。)。
なお、この物上代位権は先取特権だけでなく抵当権などの担保権にも認められています。
2 物上代位の可否
以上を前提に、御質問のケースを検討しますと、貴社が納入した木材や重機の売買代金債権を担保するのに、建設業者の注文主に対する請負代金債権にかかっていいけるかという問題になります。
まず、木材の事案については、大審院大正2年7月5日判決があり、請負代金請求に対する物上代位を否定しました。材木に工事が加えられた結果として請負代金債権になったので、請負代金債権は目的物の全部又は一部を直接代表としていないというのがその理由です。
他方で、重機の事案については、最高裁平成10年12月18日決定において、請負代金債権に物上代位を肯定しました。こちらの判決では、請負代金債権は動産の転売による代金債権と同視できるとされたためです。
両者の違いは、請負代金債権を転売等による代金債権と同視できるか否かにより生じています。
すなわち、上記最高裁決定において、「請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容に照らして請負代金債権の全部又は一部を不動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある」と認められる場合には、物上代位権の行使が可能とされています。
以上より、貴社の物上代位が認められるか否かは、貴社が動産を売却した後の請負工事の状況を勘案し、上記の「特段の事情」が認められるか否か判断されることとなります。