以前,高速道路で車外に出たところで後続車に轢かれ死亡したニュースがあったと思いますが,このような場合でも運転手が責任を問われるのですか?
(回答)
1 高速道路で車外に出た
質問の事故は,ある芸能人の方が自ら自動車を運転をしていて中央分離帯に衝突し,車外に出たところで後続車に轢かれたみたいですね。
警察庁のデータによれば,交通事故で死亡した件数は減少傾向にあるものの,うち高速道路での死亡事故は平成22年から3年連続で増加しています。
件数でいうと,22年は167件,23年は190件,24年は196件の死亡事故が高速道路で起きています。
2 刑事上の責任
交通事故を起こしてけがを負わせたら,以前は業務上過失傷害という罪に問われていましたが,交通事故の刑が被害者の感情からするとあまりにも軽かったので,現在は自動車運転過失致死傷罪という犯罪が平成19年に施行されています。
従前の業務上過失致死傷罪では,5年以下の懲役もしくは禁錮,または100万円以下の罰金であったのに対し,新しく規定された自動車運転過失致死傷罪では,7年以下の懲役もしくは禁錮,または100万円以下の罰金と,刑期の上限が2年延びました。
今回の場合だと,高速道路は文字通り自動車が高速で通行しているのですから,突然人が出てきてそれを避けることは難しいでしょう。
よって,交通事故を起こした運転手は自動車運転過失致死罪に問われるでしょうが,少なくとも一般道での事故より,加害者の過失がないという方向に働きます。
そうすると,刑罰についても執行猶予が付く可能性が高いのではないかと思います。
3 民事上の責任
民事上でも,人を轢いてしまったら不法行為に基づく損害賠償請求は避けられません。
死亡事故の場合は,数千万単位になることもよくあります。
もっとも,被害者の方にも過失がある場合には,過失相殺によって減額されることになります。
過失割合を判断するにあたって,実務で弁護士や裁判官がよく使う損害賠償額算定基準(通称赤い本)というものがあります。
これによると,高速道路で運転手が車外に出て事故に遭った場合,被害者のほうにも50パーセントの過失があるとされています。過失割合はこれで確定というわけではなく,個々の事情に応じて加算要素や減産要素を検討して決めることになります。
今回の事故では,芸能人が中央分離帯に衝突するという事故を起こしたことがきっかけとなっているようですから,芸能人の過失割合は50パーセントを超えることも考えられるでしょう。
また,高速道路上で車外に出てきたというのではなく,自動車に乗らずに歩行者が高速道路へ侵入した場合には,そのこと自体で歩行者に重大な過失があるということで,80パーセントの過失相殺が認められることになっています。
4 注意一秒,怪我一生
高速道路ではもちろんですが,一般道でも,何が起こるかわからないので,自動車運転手と歩行者は双方とも細心の注意を払わないといけませんね。
事故に遭った,あるいは事故を起こしてからでは遅いので,本当に事前の十分な注意が必要だと思います。
もし事故を起こしてしまったらすぐに弁護士にご相談ください。