借家人ですが、敷引特約は有効ですか?
(回答)
1 敷引特約とは?
敷引特約とは、敷金から退去時等にあらかじめ定めた一定割合を控除して返却するというもので、主に関西地方を中心にして賃貸借契約において広く用いられてきました。
2 敷引特約の規定例
敷引特約の規定例は次のとおり。
「第○条 賃借人は、本件賃貸借契約締結時に敷金として100万円(うち敷引分60万円)を賃貸人に預託する。
2.本件賃貸借契約が終了して賃借人が本件建物の明渡しを完了し、かつ、本件契約に基づく賃借人の賃貸人に対 する債務を完済した時は、賃貸人は本件敷金のうち40万円を賃借人に返還する。」
このようにあらかじめ定めておいた一定金額(以下「敷引金」といいます。)を控除するのは、賃借人が社会通念の使用をした場合に生ずる損耗や経年により自然に生ずる損耗を敷引金で賄おうという趣旨のようです。
3 敷引は有効か?
しかし、時間が経過したことや、賃借人が通常の使用をした場合に生じる賃借物件の劣化のような通常減耗については、民法の原則によれば、原状回復の範囲外ですし、修理費用も賃貸人が負担することになります。
このため、敷引特約は、賃借人に対して負担を増やすものとなりますので、消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものとして、消費者契約法第10条により無効になるのではないかという問題があります。
この問題に対して、最近出さされた最高裁の判例は、まず、通常損耗等の補修費用に充てるべき金員を敷引金として授受する旨の合意が成立している場合には、賃料には通常損耗等の補修費用が含まれていない趣旨であるとしています。
そして、このことを踏まえ、敷引金を一定の額とすることは、通常損耗等の補修の要否やその費用の額をめぐる紛争を防止するといった観点から、あながち不合理なものではないとしています。
4 敷引が有効となる条件
一方、裁判所は、敷引特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高過ぎる場合には、特段の事情のない限り、消費者契約法第10条により無効となると判示しています(最判平成23年3月24日判タ1356号81頁)。
要するに、敷引金が高すぎなければ、敷引特約は基本的には有効であるということです。
もっとも、具体的にどの程度であれば「高すぎる」かは実務に携わる者にとっては、非常に微妙な問題です。
今後の裁判例の集積を待つしかないでしょう。