私はアパートを経営しております。先日、入居者の老人が亡くなりました。
家賃は数か月未払いとなっていますが、この方は預金の他、宝石類などの財産を残しています。
未払い家賃を老人の預金から引き出したり、宝石を売却して返済してもらうことはできるのでしょうか?
(回答)
1 相続人の調査
たとえ家賃債権を持っていたとしても、勝手に預金から引き出したり、物を売却して債権回収をすることはできません。
被相続人の債務は、預金等とともに相続人に承継されていますから、まず相続人を探して請求することになります。
もっとも、相続人の調査は必ずしも容易ではありませんし、単に被相続人の債権者にすぎない場合は、調査の方法も限られます。
2 相続人が不在の場合
相談のような事例で、老人の相続人が見つからない場合、どのように処理されることになるでしょうか。
この点、相続人不在の場合、利害関係人又は検察官が家庭裁判所に申し立てることによって、相続財産管理人を選任してもらうことができます。
相談の事例では、相談者は被相続人に対する債権者ですから、利害関係人に当たります。
3 相続財産管理人の手続
相続財産管理人選任の申立てをすると、家庭裁判所は、相続財産管理人の選任を官報に公告し(通常、弁護士が選任されます)、2ヶ月以内に相続人が現れなかったときは、清算手続に入ります。
相続財産管理人は、少なくとも2か月以上の期間を決めて、亡くなった人の債権者や受遺者に請求の申出をするよう官報に公告し、また既にわかっている債権者や受遺者に対して通知をします。
その後、被相続人の遺産の中から債権者に支払いをします。遺産の中に不動産や宝石等の動産があるときは、相続財産管理人がこれらを競売して現金化した上で、債権者に支払うことになります。
ここで、債権者が複数いて、すべての債権額が遺産の価額を上回るときは、債権額に按分して支払われることになります。
4 相続人不在の確定と特別縁故者
上記の2度の公告をしても相続人の存在が明らかにならないときは、家庭裁判所は、6か月以上の期間を定めて最後の相続人捜索の公告をします。
それでも相続人が現れないときは、相続人不存在が確定し、相続人や債権者、受遺者はもはやその権利を主張することができなくなります。
また、相続人の不存在確定した場合、3か月以内に、亡くなった人と生計を同じくしていた者、亡くなった人の療養看護に努めた者その他の特別縁故者は、家庭裁判所に、遺産の全部もしくは一部を分与することを請求することができます。
そして、分与がなされず、または一部の分与のみがなされたときは、残った遺産は国庫に帰属することになります。
5 相続人がいないケースの増加
近年、家族関係の希薄化もあり、独居老人などで、一定の遺産があるにもかかわらず、相続人が見つからないために処理に困るケースがあります。
まずは弁護士にご相談ください。