遺産である賃貸マンションから生じた賃料債権は誰のもの?

(質問)
 Aは,賃貸マンション事業を営んでおり,年間600万円(10万円/月×12ヶ月×5室)の賃料収入がありました。
 そうであるところ,Aが死亡し,妻B及び子Cが相続人となりました。
 そして,遺産分割協議の結果,賃貸マンションはBが相続することになりましたが,遺産分割協議が成立したのはA死亡の1年後であったため,すでに600万円の賃料が発生しています。
このような場合,この600万円の賃料はだれが取得することになるのでしょうか?

(回答)

1 遺産分割協議の効果 
 この問題について,遺産分割協議の効果は法律上A死亡時まで遡るため(民法909条),賃貸マンションをA死亡時に遡って取得したBが,600万円の賃料も全て取得することになると思われるかもしれません。

2 賃料は遺産に属さない? 
 しかし,平成17年9月8日の最高裁判決により,この問題は次のように扱われます。
 すなわち,遺産である賃貸マンションから生じた賃料債権は遺産に属さず,相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するのです。
 この質問でいうと,600万円の賃料は,法定相続分に従って,B及びCがそれぞれ300万円ずつ取得することになります。
 なお,遺産分割協議成立後に発生する賃料は,賃貸マンションを相続したBが取得します。

3 賃借人の注意事項 
 ここで視点を変えて賃貸マンションの賃借人の一人であるEの側から見ますと,Eは,A死亡後遺産分割協議が成立するまでは,原則として,月10万円の賃料をB及びCにそれぞれ5万円ずつ支払わなければなりません。
 しかし,これでは煩雑なので,Eは,例えば供託したり,B一人に支払えば済むようにしたいと思うでしょう。しかし,まず供託について,債権者がB及びCと確定している以上,債権者不確知を理由に供託をすることはできません。
 次にB一人に支払えば済むようにするには,B及びCの了解をとる必要があります。仮にB及びCの了解をとらなかった場合には,法律上有効な弁済になりませんので注意が必要です。

4 相続問題は意外なことも 
 このように,相続においては,法律知識を押さえておかなければ思わぬ落とし穴に陥る危険が高いですので,弁護士にご相談されることをお勧めします。