遺産分割を行うに際し、兄弟から「あなたは父親からかなりの資金援助を受けていたから遺産分割では私が多くもらえるはずだ」などと言われました。
このような主張は通るのでしょうか?
(回答)
1 特別受益になるか
まず、「特別受益」(民法第903条)とは、相続人が被相続人から遺贈を受け、または婚姻、養子縁組のためもしくは生計の資本として贈与を受けた場合をいいます。
代表例は子が独立する際に新居のための土地を贈与する場合です。この場合、登記に贈与を行ったことが記載され明確になりますので、特別受益が存在するとの立証も容易になります。もっとも、多くの場合で問題になるのは現金をいくらもらった等の争いです。
こちらについては客観的な証拠がないことが多く、立証が困難であることから、調停等でも特別受益であることが認められないことが多いといえるでしょう。
なお、立証さえできれば何十年前の行為であっても「特別受益」に当たりますがこの点を認識されていないことも多いため盲点になりがちです。
2 教育費用の場合は
では、大学の授業料等の教育費用はどうでしょうか。
高校以上の教育費用はすべて生計の資本としての贈与にあたるとする考えもあります(依頼者はむしろこのような考え方をされる方が多いと思います。)が、最近では、被相続人の資産や社会的な地位を考慮して扶養の範囲内といえる場合は特別受益に当たらないとされることが一般的とされています。
これに関連して興味深い裁判例があります。相続人である子らは、それぞれ高等教育を受けていたものの進学先が異なったため支援額に差が生じました。そこで、相続人の一人が、高額の教育費を援助してもらったことは特別受益になると主張したものの、裁判所は、上記の場合でも、「通常、親の子に対する扶養の一内容として支出されるもので、遺産の先渡しとしての趣旨を含まないものと認識するのが一般的」として、そのような差が生じたとしても、特別受益には該当しないと判断しました(大阪高裁決定平成19年12月6日)。
もっとも、扶養の範囲を超える場合や相続人間において援助額の差が著しい場合は特別受益に該当する可能性もありますので、その点は御注意ください。
3 持ち戻し免除の意思表示
なお、特別受益に該当する場合でも被相続人が持ち戻し免除の意思表示を行っていた場合、被相続人の意思が優先し、特別受益であることの主張ができなくなります。
したがって、遺言作成にあたって特別受益が存在することが強く疑われる場合等では、遺留分に留意しつつ、持ち戻し免除の方法も検討すべきでしょう。
後々トラブルにならないためにもまずは弁護士にご相談ください。