私は20年前に現在の夫と結婚しました。子どもはいません。
ところが,1ヶ月ほど前,夫が浮気をしていることがわかり,そのことを責めると,夫は不倫相手のところへ行くと言って家を出てしまいました。夫は,不倫相手と結婚するつもりだから私とは離婚する,離婚届にサインしないなら裁判をしてでも別れる,と言っています。
私は離婚するつもりはないのですが,夫から裁判を起こされると離婚が認められるのでしょうか。
(回答)
1 踏んだり蹴ったり判決
今回は,不貞をした配偶者からの離婚請求で,いわゆる,「有責配偶者からの離婚請求」といわれる問題ですが,これについては,昭和27年に有名な最高裁判決があります。
夫Xが妻Y以外の女性と性的関係を持ち,その後,Xは家を出て不倫相手の女性と暮らし,2年の別居の後,Xから離婚訴訟が提起されたという事案です。
これに対して,裁判所は,「婚姻関係を継続し難いのはXが妻たるYを差し置いて他に情婦を有するからである。――結局Xが勝手に情婦を持ち,その為最早Yとは同棲出来ないから,これを追い出すということに帰着するのであって,もしかかる請求が是認されるならば,Yは全く俗にいう踏んだり蹴ったりである。法はかくの如き不徳義勝手気侭を許すものではない」と判示して,離婚請求を認めませんでした。
これは,婚姻関係が破綻していると客観的に評価できるような場合に離婚請求を認めるという「破綻主義」を前提として,破綻について有責な者からの離婚請求を認めないという立場であり,「消極的破綻主義」と呼ばれています。
2 有責配偶者からの離婚請求が認められる場合は?
昭和27年の判例は,有責配偶者からの離婚請求であるという一事をもって請求を認めないというものですが,現在もその考え方が厳格に貫かれているわけではありません。
消極的破綻主義の考え方について判示したもう一つの有名な判例として,昭和62年の判決があります。
この判決では,有責配偶者からされた離婚請求であっても,①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間の及び,②その間に未成熟の子が存在しない場合には,③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り,離婚が認められる場合があると判示されています。
これは,どのような場合でも有責配偶者からの離婚請求を認めないとすると,既に破綻した形骸的な婚姻関係が残り続けるだけで,現実の夫婦関係と法律上の夫婦関係とがかけ離れたものとなってしまうという問題もあるためだと考えられます。
3 やはり結論はケースバイケース
今回のケースでは,未成熟子はいませんが,別居期間はわずか1か月であり,やはり,有責配偶者である夫からの離婚請求は認めらないでしょう。
とはいえ,昭和62年判例のとおり,一定の場合には有責配偶者からの離婚請求も認められることがありますので,事案毎に具体的な事実に即して検討する必要があります。