自己所有の土地に放置された他人の自動車を勝手に撤去してもいいの?

(質問)
 私は、自宅の近くに土地を所有しており、これまで何年も空き地にしていましたが、この度、息子夫婦の家を建てることになりました。
 ところが、その空き地に、1年ほど前から誰のものか分からない自動車が勝手に停められています。
 自動車を撤去したいのですが、私はどうすればよいのでしょうか?

(回答)

1 自力救済の禁止 
 たとえ自己所有の土地上に放置された他人の自動車であっても、原則として、これを勝手に移動させたり、廃棄したりすることはできません。
 禁止された自力救済にあたりますし、後に所有者から損害賠償請求などをされるリスクもあります。
 自動車の持ち主に任意に撤去してもらえない場合は、訴訟をして判決を得た上で、強制執行の手続をとる必要があります。

2 どのような請求をするのか 
 相談のような事例で訴訟を提起する場合、どのような請求になるでしょうか。
 これについては、基本的には、「土地所有権に基づく土地の明渡請求」ということになります。すなわち、自動車の放置(=土地の占有)によって、土地所有権が侵害されているので、占有を解いて土地を明け渡せ、という請求です。

3 明渡請求を誰にするか 
 さて、所有権に基づく明渡請求をするにあたっては、不法占有をしている人、すなわち自動車の所有者を調べる必要があります。
 調査の結果、自動車の所有者が、信販会社等になっている場合があります。ローンで購入された自動車で、債務が完済されていないような場合です。
 この場合、明渡しの請求は、誰にすればよいでしょうか。
 この点について、平成21年に最高判例があります。判決は、「留保所有権者は、残債務弁済期が到来するまでは、当該動産が第三者の土地上に存在して第三者の土地所有権の行使を妨げているとしても、特段の事情がない限り当該動産の撤去義務や不法行為責任を負うことはないが、残債務弁済期が経過した後は、留保所有権が担保権の性質を有するからといって上記撤去義務や不法行為責任を免れることはできない」として、残債務全額の弁済期が経過したときは、留保所有権者が責任を負うとしています。
 これは、信販会社等は、債務の弁済期が経過するまでは、所有権があるといっても自動車を使用する権原はないものの、弁済期が経過すれば留保所有権に基づいて自動車を処分等することができるためです。
 したがって、ローン未完済の自動車については、弁済期経過前であれば自動車の使用者に明渡しを請求することになりますが、弁済期経過後であれば留保所有権者である信販会社等にも請求することができます。

4 損害賠償請求交渉 
 なお、弁済期が経過した後も、信販会社等が不法占有の事実を知らなければ不法行為責任を負いませんから、信販会社等に通知して不法占有の事実を告知する必要があります。