定年後の給与、どこまで下げられる?-中小企業のための再雇用制度改革ガイド-

(質問)
 高年齢者雇用安定法の経過措置が本年3月末日をもって終了し、4月1日以降は希望者全員を継続雇用の対象としなければならないとのことですが、その際には定年前とは異なる職務内容での再雇用契約は可能でしょうか。
 また、職務内容の変更に伴い、賃金を調整することは問題ないのでしょうか。

(回答)

1 2025年4月、全企業に突きつけられる課題
 「うちのような小さな会社でも、希望者全員を65歳まで雇わないといけないの?」「今の給与を維持するのは難しいけど、どこまで下げていいの?」――。
 こうした中小企業経営者の不安の声が高まっています。
 高年齢者雇用安定法(以下「高年法」といいます。)の経過措置が2025年3月31日で終了し、同年4月1日以降、規模に関係なく全ての企業で、原則として希望者全員を65歳まで継続雇用しなければならなくなるためです。
 高年法では、65歳未満の定年制度を導入している会社に対して、①定年の引上げ、②継続雇用制度(再雇用又は勤務延長)の導入、③定年の定めの廃止のいずれかの措置を講じることを義務付けています。
 多くの中小企業では人員に余裕がないため、定年後の職務調整に特に悩まれることでしょう。

2 裁判例から学ぶ実務のポイント
 再雇用に伴う職務内容の変更や賃金引下げには一定のルールがあります。
 事務職から清掃業務への大幅な職種変更は違法とされ、労働時間の減少(約45%減)に比べて過度な賃金減額(約75%減)も違法と判断されています。
 一方で、課長職から一般職への変更に伴う賃金減額(月50万円から31.5万円)は適法とされた例もあります。
 これらの裁判例は、職務変更や賃金調整を行う際の重要な指針となります。

3 中小企業ならではの再雇用のアイデア
 大企業と違い、中小企業には柔軟な対応が可能というメリットがあります。
 例えば、以下のような工夫が考えられます。
 ○多能工型:複数の業務をこなす「なんでも屋さん」として活躍
 ○社外派遣型:取引先への派遣により、橋渡し役として活用
 ○時短・隔日型:繁忙期中心のパートタイム勤務で対応
 特に熟練工や営業のベテランは、その経験を活かして協力会社や取引先との関係強化に貢献できる貴重な人材です。
 大企業のような細かな役職にとらわれない分、柔軟な活用が可能です。

4 現実的な賃金設計のヒント
 賃金面では、基本給の4割減を目安としつつ、固定給と変動給の組み合わせ(例:基本給7割+実績給3割)や、短時間勤務との組み合わせ(週3日勤務で給与6割)など、柔軟な対応が可能です。
 職務を限定することで、給与水準の調整も行いやすくなります。
 重要なのは、一律の賃金カットを避け、個々の従業員の能力や経験、担当業務に応じた適切な処遇を設計することです。
 例えば、若手の育成担当には「技能伝承手当」を設定するなど、新たな役割に応じた手当を創設することで、モチベーションの維持を図ることができます。

5 中小企業の強みを活かした人材活用
 2025年4月の制度変更は、一見すると負担増のように思えますが、規模が小さい分、個々の従業員の経験や技能を把握しやすく、きめ細かな配置が可能です。
 ベテラン社員の持つ業界独自の暗黙知や取引先との人間関係は、代替の難しい貴重な資産です。
 例えば「週3日は若手指導、残り2日は得意先回り」といった柔軟な働き方を設計することで、会社にとっても働く側にとってもメリットのある再雇用制度を作ることができます。

6 まとめ
 人手不足が深刻化する中、シニア人材の活用は中小企業にとって生き残りのカギとなるかもしれません。
 2025年4月の制度変更を、自社の強みを見直し、新しい働き方を創造するチャンスと捉えてみてはいかがでしょうか。
 高年齢者雇用確保措置についてお悩みの方は、弁護士等の専門家にご相談されることをおすすめします。