XはYと令和4年3月に調停離婚しました。
XY間には4歳の男の子がいます。
調停調書には、YはXに対し、長男の養育費として、令和4年4月から長男が20歳に達するまで月額5万円を毎月1日に支払う旨の条項があります。
Yは令和6年6月分までは毎月の養育費を支払ってくれていましたが、7月以降支払ってくれず、家庭裁判所に履行勧告の申立てをしましたが、Yは応じてくれません。
同年11月現在、XはYの給料の差押えを検討しています。
今回の事例の場合、Yの給料を差押えるは可能でしょうか。
仮に可能な場合に養育費の不払がある度に毎月強制執行の申立てをしなければならないのでしょうか。
(回答)
1 養育費とは
養育費とは、子どもが社会人となり、自立するまでの衣食住、教育及び医療等に要する費用のことをいいます。
この養育費については、分担義務が民法上定められています。
父母が離婚していない場合には、婚姻費用として、相手方に請求でき(民法760条)、離婚していれば、子どもの監護費用として親権者にならなかった相手方に対して養育費の支払を請求することができます(民法766条1項)。
相談事例は離婚後の養育費なので後者にあたります。
2 養育費不払いの給料差押え
養育費は、養育費支払義務者が任意に養育費を支払ってくれない場合には、強制執行が可能です。
相談事例の場合、調停調書に養育費が定められていますので、家事事件手続法「別紙第二に掲げる事項」に該当し、審判と同一の効力である執行力のある債務名義と同一の効力が認められることになります(家事事件手続法268条1項括弧書き)。
したがって、執行文の付与が必要なく強制執行できます。
そして、給料を差し押さえる場合、原則4分の1とされていますが、養育費の不払いで給料を差し押さえる場合には、給料から税金と社会保険料等を控除した金額の2分の1まで差押えが可能とされています(民事執行法152条3項、151条の2第1項)。
強制執行は、原則として期限が到来している債権でなければ執行が開始できません(同法第30条1項)。
しかし、養育費のような少額の定期金債権を通常の債権と同様に扱うと、毎月不履行がある度に強制執行を申し立てなければならず、費用倒れとなる可能性があります。
そこで、毎月一定額を支払う養育費のような債権は、確定期限の定めのある定期金債権に該当し、一部不履行があるときは、当該定期金債権のうち確定期限が到来していないものについても、債権執行を開始することができるといった民事執行法上に特別な規定が設けられています(同法151条の2第1項)。
3 相談事例の検討
Yは、Xに対し月5万円の養育費を令和6年5月以降支払わず、同年11月現在では不履行の養育費が25万円となっています。
この25万円の部分は履行期到来後の債権となります。
そして、12月分以降の養育費については、期限が到来していない定期金債権として、差押えを開始することができることになります。
もっとも、差押えが可能となるのは、各定期金債権について、その確定期限の到来後に弁済期が到来する給料のみです(同法151条の2第2項)。
すなわち、将来分の養育費については、支払日が毎月1日であり、Yの給料日が毎月20日であれば、12月分の養育費は、12月20日に支給される給料から取り立てることになります。
4 最後に
養育費の不払いで給料を差し押さえるためには、養育費支払義務者の勤務先が特定されていなければなりません。
勤務先が特定されていない場合には、市町村や年金事務所等に第三者情報取得手続などをして勤務先を特定する必要があります。
養育費の不払いなどで、お困りの際は早めに弁護士等の専門家に御相談ください。