民法の共有に関する規定が令和3年に改正がされ、令和5年4月に施行されたと思います。
特に実務で問題となる共有の変更・管理の部分について、改正の経緯や内容、今後の課題などを詳しく教えていただきたいです。
(回答)
1 改正前の問題点
「共有」の制度は、複数の人が同一の財産を共有することを規定しており、共有の変更・管理については、民法251条および252条で規定が置かれています。
旧法の251条は、共有物の変更はすべての共有者の同意がなければできないと定めるのみでした。
また、旧法252条では、共有物の管理に関する事項は、持分価格の過半数で決し、保存行為は各共有者が行うことができる旨規定するのみでした。
このように規定の内容が不明確であることから、実務上、以下のような問題が生じていました。
まず、共有者間での意思決定の困難さです。
共有者が増加すると、全員の同意を得ることが困難になり、特に相続によって細分化された土地では、管理や処分が難航するケースが多発していました。
次に、土地の放置として、共有者の中に意思疎通が取れない人がいる場合や、意図的に協議を拒否する者がいると、土地が放置されることが多くなり、土地の有効利用が阻害されるという問題も生じていました。
さらに共有関係の紛争として、土地の使用方法や管理を巡る共有者間の紛争が頻発し、その解決には多大な時間とコストがかかるという問題も起こっていました。
これらの問題を解決するために、共有物の管理等についてのルールを緩和し、土地の有効活用を促進するための制度的改善が求められていました。
2 共有物の変更・管理規定の改正について
⑴共有の変更規定(同法251条)
改正法は、原則として共有物を変更する場合には、共有者全員の同意が必要となりますが、共有物の形状・効用に著しい変更をもたらさない場合は通常の管理と同じようにみなされ、過半数の同意で足りると規制が緩和されました(民法251条1項括弧書き)。
さらに、一部の共有者又はその所在が不明の場合においては、裁判所の決定により共有物の変更を可能とする規定が新たに設けています(同条2 項)。
この改正により、共有者全員の同意がない場合や、共有者に所在不明者がいた場合であっても一定の変更行為がおこなえることになりました。
⑵共有の管理規定(同法252条、同条の2)
改正法は、共有物を事実上使用する共有者がある場合においても、持分の価格の過半数で共有物の管理に関する事項を決定できることになりました(同252条1項)。
また、一部の共有者又はその所在が不明の場合及び一部の共有者が共有物の管理に関する事項についての賛否を明らかにしない場合においては、裁判所の決定の下に共有物の管理に関する事項の決定を可能とする規定が新たに設けられました(同条2項)。
さらに賃貸借等の権利のうち共有物の管理として設定できるものを明らかにしています(同条4項)。
加えて、共有物の管理者の設定や義務についての規定も設けられました(252条の2第1項・3項)。
この改正により、共有物の管理について、共有物の使用者に対しても、その使用事項を過半数で決めることができたり、使用権の存続期間の長期化を防ぐことができるようになりました。
3 私見
令和3年の民法改正は、共有物の管理や使用における意思決定を円滑化し、特に土地の有効活用を促進するための重要な一歩です。確かに少数派共有者の権利を保護する必要性は軽視できません。
しかし、少数派共有者の権利を重視しすぎることによって、土地の活用方法や処分などが実現出来ないことは社会全体で考えると経済的な不利益が大きいといえます。
所有権絶対の原則が尊重され、私的財産の保護を重視すぎることによって、実務において、上記の「1 改正の前の問題点」のような問題が生じていました。
今回の改正によって、一定の場合には裁判所が関与し、少数派共有者の権利を制限することができるなど、所有権絶対の原則が緩和されたことは、実社会に即した重要な改正であると言えるでしょう。
共有やその他土地の権利関係でお困りの際は早めに弁護士等の専門家に御相談ください。