以前,資産家女性が家政婦に全遺産を渡すとした遺言があったにも関わらず,実娘が遺産の大半を自分の口座に勝手に移したため,遺言無効確認訴訟となった相続問題がありましたよね。
あの事件の争点は何だったのですか?
(回答)
1 事件の概要
この事件は,ある資産家女性の「遺産は全て家政婦に渡す」とした遺言があったにも関わらず,この遺言が有効なら権利がないはずの実娘が遺産の大半を自分の口座に移したため,家政婦女性と実娘がこの遺言は有効か無効なのかを争った事件です。
実娘側は,母の生前に家政婦女性がお金を着服していた,遺言は無効であると主張し,家政婦女性側は,着服はしておらず,遺言は有効であり,勝手に口座に移したお金を返還するよう主張しました。
判決は家政婦女性の全面勝訴で,実娘は遺産の返還を求められました。
報道によると,家政婦女性は50年近くこの資産家宅で住み込みの家政婦をしており,旦那さんが亡くなられてからは無給で続けられていたそうです。
2 遺言能力の有無
遺言能力とは,「遺言は法律行為であり,合理的な判断能力がなければなし得ない。この遺言を有効になし得る能力」をいいます。
争点となったのは遺言能力の有無と,家政婦女性が着服していたかどうかという点です。
双方の主張で,遺言作成時に資産家女性の合理的な判断能力があったかどうかが大きな争点となっていました。資産家女性の年齢は当時約90歳で判断能力が減退していた可能性はあります。
しかし,裁判所は実娘が長年に渡り,資産家女性に金の無心を続けていたと事実認定し,資産家女性は「資産を奪われるのが怖くて外出できない」と第三者に話していたことも指摘し,家政婦女性に感謝して遺言を作成したとして,家政婦女性の主張を全面的に認めました。
3 着服の点は
次に,着服の点ですが,実娘側が長年にわたり資産家女性に無心を続け,多額の援助をしてきたことや,資産家女性の死後に家政婦女性が帰郷した際,着の身着のままで現金も5千円しか持っておらず,大金を着服した人物ならば不自然だったことから,裁判所は,「使途不明金はカネ遣いの荒い実娘側に渡るなどしたと考えられる。
女性による着服は認められず,推認すらできない」と判断しました。
4 遺留分のリスク
法定相続人には遺留分という権利がありますので,今後実娘2人から遺留分減殺請求訴訟が起こされることになるかもしれません。
相続トラブルは年々増加しています。簡単なようで複雑な問題も多々存在します。
少しでも疑問,不安なことがございましたら,まずは弁護士にご相談ください。