どうする?経営者の意思能力喪失!

(質問)
  Xは、Y社の代表取締役を務めており、Y社の株式の過半数を保有しています。ところが、先日、突然の病気で意識不明となって、意思能力を喪失してしまいました。この場合、代表者としての地位や株式としての地位はどのように扱われるでしょうか。

(回答)

1 代表取締役かつ株主が意思能力を失った場合の問題
 意思無能力者がした法律行為は無効となります。そのため、会社の代表取締役が、意思無能力者となると、取引先等と有効な契約ができなくなります。また、株主である場合、株主総会で有効な議決権行使をすることができず、会社の意思決定に支障をきたす事態が考えられます。この場合、どのような対応を取ればよいでしょうか。

2 代表取締役の地位
 代表取締役が、意思無能力者となった場合、それだけでは取締役の地位を失いませんが、後見開始の審判を受けたときは、取締役の地位を失います。
代表取締役が病気等で意思能力を失った場合、取締役会設置会社であれば、取締役会で他の取締役を新たな代表取締役として、選任することになります。また、取締役会設置会社以外で他の取締役がいる場合は、定款、定款の定めに基づく取締役会又は株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることになります。
取締役が意思無能力者のみの場合は特に問題となります。後見開始の審判を受けて、代表取締役に欠員が生じた状態であれば、利害関係人が裁判所に申立てをして、一時代表取締役の職務を行うべきものを選任することができます。また、後でも説明しますが、後見人に株主の議決権を代わって行使してもらい、後任の取締役を選任することもできます。

3 株主の地位 
株式が意思無能力者であった場合、議決権行使ができず、株主総会での意思決定に支障が生じるといった問題が生じます。この場合、家庭裁判所に申立てをして、成年後見人を選任する必要があります。そして、成年後見人に議決権行使をしてもらうことになります。もっとも、成年後見人が、後任の取締役として誰が適任かといった判断について適切な議決権の行使ができるとは限りませんし、後見人が選任されるまでの間、意思決定ができない問題が生じます。
事例のような急病の場合には、どうしようもありませんが、徐々に判断能力が衰えていると判明している場合は、早めに、後継者に株式を譲渡しておく方法、後継者を任意後見契約によって後見人として定めておく方法や民事信託により議決権行使ができるようにしておく方法などの対策を取るべきでしょう。

 事例のような会社のトラブル、事業承継に関する法律問題に関しては弁護士にご相談ください。