高年齢者人材をいかに活用するか?

(質問)
 定年が70歳になったと聞いたのですが本当でしょうか。それは義務なのでしょうか。詳しく教えてください。

(回答)

1 高年齢者の就業確保措置
 ご存知の方も多いと思いますが、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の改正法により、事業主は、高年齢者に70歳までの就業確保措置を取ることが努力義務とされています。
 努力義務規定は、それに反する行為を違法・無効とする効果を有するものではなく、当事者の任意の履行に期待するルールです。
 そのため、これを遵守せずとも、違法とはされませんが、必要と認める場合、厚生労働大臣が事業主に対して指導・助言等を行うことができると定められています。
 現状、努力義務ではありますが、70歳までの就業確保措置を講じることを検討してはいかがでしょうか。
 そこで、70歳までの就業確保措置を導入する際に、何を考えるべきかをお話しします。

2 有期契約による再雇用を選択する場合
⑴対象者基準の設定
 65歳以上の高年齢者と有期雇用契約を締結して継続雇用する制度を導入する場合には、対象者基準の設定をすべきです。既に、70歳までの高年齢者就業確保措置を導入している企業では対象者基準を設定しているところが多くあります。65歳未満の継続雇用と異なり、70歳までの就業確保措置は努力義務であるため対象者基準の設定は可能であると解されています。ただし、事業主が恣意的に高年齢者を排除しようとするなど法の趣旨や、他の労働関係法令に反する又は公序良俗に反するものは認められないと考えられます。65歳以降に関して対象者基準を設定する場合の就業規則の規定例は厚生労働省の「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者就業確保措置関係)」に掲載されているので参考にしてください。

⑵待遇の設定
 70歳までの継続雇用をする場合、待遇をどのようにするかも検討が必要です。待遇差を設ける場合には、定年前の無期契約労働者と定年後の有期契約労働者と比較し、職務内容などを考慮して、待遇差の相違が不合理と認められないようにしなければならず、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(短時間・有期雇用労働法)8条に違反しないように注意が必要です。定年後再雇用者のモチベーションを維持するためにも、労使協議を経たうえで、定年後の業務内容も工夫しつつ、労働者の納得を得られるような待遇を設定すべきでしょう。
待遇の設定につき、厚生労働省の「高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針」によれば、「高年齢者の意欲及び能力に応じた就業の確保を図るために、賃金・人事処遇制度の見直しが必要な場合」には「能力、職務等の要素を重視する制度に向けた見直しに努めること」、「勤務形態や退職時期の選択を含めた人事処遇について、個々の高年齢者の意欲及び能力に応じた多様な選択が可能な制度となるよう努めること」、「就業生活の早い段階からの選択が可能となるよう勤務形態等の選択に関する制度の整備を行うこと」などが記載されています。

⑶無期転換申込権への対応
 60歳から65歳まで1年契約の再雇用で、65歳以降も同じく再雇用を行う場合、65歳を超えた段階で労働契約法18条1項による無期転換申込権が発生するため、注意が必要です。有期契約特別措置法に基づく特例の適用を受けることや無期転換申込権が行使されることを見越した第二定年制の導入により対応することが考えられます。

3 創業支援等措置を選択する場合
 就業確保措置として、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入などを選択することもできます。これを「創業支援等措置」といいます。
⑴下請法との関係
 70歳までの就業確保措置として、創業支援等措置を取る場合、雇用によらないため、高年齢者の雇用管理上の規制や労働法規の規制を受けることはありませんが、下請法等の規制を受ける場合がることにも注意が必要です。

⑵労働者性について
創業支援等措置は雇用によらない措置であるため、対象となる高年齢者に労働者性が認めらない働き方としなければなりません。労働者性が肯定された場合、労働法規の適用されるリスクがあります。

4 高年齢者人材をいかに活用するか
 今後、少子化により若手人材が不足する中で、健康で勤労意欲のあるシニア人材の活用が必要となります。企業は、法律が変わったからというよりは、いかに働く意欲のある高年齢者を活かすかという視点で、その職務内容や待遇を設定していくべきではないでしょうか。ポストコロナ禍の時代を勝ち抜くため、人事制度・賃金制度全体の見直しを図るタイミングが来ているのではないかと考えます。
 企業の人事制度・賃金制度の見直しには、同一労働同一賃金、就業規則の不利益変更など法的な検討を要する場面がたくさんあります。お困りの際には、お気軽に弁護士にご相談ください。