迷惑行為動画の投稿問題と企業の対応

(質問)
 某回転ずしチェーン店での迷惑行為動画が世間を賑わせていますが、法的責任と企業の対応について教えてください。

(回答)

1 SNSでの迷惑行為動画の投稿問題
 令和5年1月末頃、某回転ずしチェーン店で、客が卓上のしょうゆボトルの注ぎ口や未使用の湯のみをなめる様子などを撮影した動画がSNS上に投稿される事件が、その直後、2月初め頃にも、別の某回転ずしチェーン店で、客がレーンを流れる寿司を手づかみで直接食べ、卓上の醤油ボトルを口に含んで笑みを浮かべる様子などを撮影した動画がSNS上に投稿される事件がありました。どちらも、単なる悪ふざけでは済まされず、刑事事件になっています。そこで、今回は、迷惑行為の法的責任と企業の対応についてお話しします。 

2 迷惑行為に対する民事責任
店舗で迷惑行為を行い、その様子を撮影して、SNSに投稿する行為には、その行為と因果関係が認められる範囲の損害につき、行為者は、不法行為に基づき損害賠償責任を負う可能性があります。損害の範囲としては、消毒や清掃などの対応に要した費用、減少した売上に相当する金額などが認められると考えられます。ただし,特に,売上の減少が損害と認められるかは、迷惑行為と売上げの減少との因果関係を立証できるのかという問題があります。損害の範囲は、事案によって異なりますが、迷惑行為により売上げが大幅に減少した事案であれば、極めて高額な損害賠償請求となる可能性もあります。

3 親の監督責任を追及できないのか?
 ひと昔前にはバイトテロなんてものもありましたが、若者による迷惑行為が多く問題となっています。そこで、迷惑行為者が、未成年の場合、親に損害賠償請求できないかという問題もあります。
⑴責任能力がない未成年者の場合
未成年は、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったとき、賠償責任を負いません。裁判例上、12歳程度までの子どもについては、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていないと判断される傾向です。責任無能力者が責任を負わない場合、その監督義務者は、監督義務を怠らなかったこと、又は、監督義務を怠らなくても損害が生ずべきであったことを立証しない限り、責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負います(民法714条)。責任能力がない未成年者の場合、未成年者は責任を負わず、民法714条により、親に対して、損害賠償請求することができます。
⑵責任能力がある未成年者の場合
また、未成年者が責任能力を有する場合でも、監督義務者の監督義務違反と未成年者の不法行為によって生じた結果との間に因果関係があるときは、監督義務者に民法709条に基づく不法行為が成立します。もっとも、この監督義務とは、危険発生の予見可能性がある状況下で権利侵害の結果を回避するために必要とされる行為をなすべき義務であるため、一般論として、子による突発的な迷惑行為には、監督義務の違反は認められにくいと考えられます。
以上のように、民事責任については、損害の範囲はどこまで認められるか、迷惑行為者が若者(特に未成年)の場合、賠償金を回収できるのかという問題なども考慮する必要があります。

4 迷惑行為に対する刑事責任
 刑事責任としては、迷惑行為により、業務を妨害した場合には、威力業務妨害罪や偽計業務妨害罪が成立します。また、備品を損壊、汚損など物の本来の効用を失わせた場合には、器物損壊罪が成立します。刑事責任については、迷惑行為の内容に応じて、犯罪の成否を検討する必要があります。迷惑行為動画の投稿には、若者の悪ふざけという面はありますが、企業は、こうした行為を許しておくべきではありません。特に、飲食店では、食の安全を脅かす重大な問題です。迷惑行為の抑止のため、被害届の提出や刑事告訴といった強硬な措置を取るべきです。

5 企業防衛には性悪説!!
 なぜ若者が迷惑行為動画を投稿するのか不思議ですが、きっと自分の行為がどんな結果を招くのか想像ができないのでしょう。誰もがSNSで容易に情報発信できる時代だからこそ、見えていなかった事件が顕在化しているだけかもしれません。
何事もそうですが、企業防衛には性悪説的な発想で対策を講じなければならないと私は考えています。悪い顧客の存在を常に想定しながらも、顧客に対する利便性やサービスの質を損なわない範囲で、事前防止策を講じる必要があります。ただし、どこまで対策すべきかは非常に悩ましい問題で、完全に防止する対策を講じることは現実的ではありません。
結局は、問題発生時にどれだけ適切かつ迅速な対応を行い、顧客からの信頼回復ができるかが最も重要となります。不祥事の際に、頓珍漢な記者会見を開いたり、初動対応を誤っている事例もときどき見ます。適切な対応には、事前に法的な検討をすることが不可欠です。お困りの際には、弁護士にご相談ください。