Xは、日常生活で悪いことが続いており、不安を抱えていました。そこで、占い師Aに相談をしたところ、「私は霊感がある。あなたには、悪霊がついており、このままでは、あなたは、病気になってしまう。この数珠を買えば、悪霊が去る。」と言われ、50万円で数珠を購入しました。後日、知人に相談したところ、「騙されている。」と言われました。Xは、なんとかお金を取り戻せないでしょうか。
(回答)
1 霊感商法とは?
霊感商法による被害は、最近、ニュースで話題になっています。霊感商法とは、商品に超自然的な霊力があるかのように思いこませて、高い値段で販売する方法をいいます。霊感商法の対策を議論する消費者庁の有識者検討会では、消費者契約法を改正して契約の取消権の要件緩和や取消権の行使期間延長すべきという提言もなされているようです。現行法では、霊感商法により契約をした場合、どのように救済されるでしょうか。
2 消費者契約法による不当勧誘規制
消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、①霊感その他合理的に実証することが困難な特別な能力により知見として、②そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生じる旨を示してその不安をあおり、③当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げることにより、④困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取消すことができるとされます(消費者契約法4条3項6号)。
「霊感」とは、除霊、災いの除去や運勢の改善など超自然的な現象を実現する能力で、霊感以外でも「合理的に実証することが困難な特別な能力」も対象とされ、四柱推命、星座占い、タロットカードなども該当します。「困惑」とは、精神的に自由な判断ができない心理状態をいいます。
相談事例では、Xは、Aにより、Xに悪霊がついており、そのままでは病気になるという重大な不利益を告げられ(①②の要件該当)、また、数珠を買えば悪霊が去るとして、数珠の売買契約によって、病気という不利益を避けることができることを告げられています(③の要件該当)。こうした勧誘によって、Xが精神的に自由な判断ができず、数珠の売買契約を承諾したのであれば、その承諾の意思表示は取り消すことができます。その場合、契約の取消しの意思表示を行い、売買代金の返還を求めることになります。
3 取消権の行使期間
上記の取消権は、追認することができる時(消費者が事業者の行為による困惑から脱した時)から1年間行わないとき、または、契約の締結の時から5年を経過したとき、時効によって、消滅するとされます。このように、取消権には、行使期間の制限があるため、注意が必要です。霊感商法によりマインドコントロール下にある場合、それを抜け出すには、相当程度の時間を要し、行使期間を経過してしまう場合も考えられます。こうした事態を考えて、行使期間を延長すべきという提言がなされているようです。