道路交通法施行規則が一部改正されると聞きました。どのように改正されるのでしょうか。
(回答)
1 安全運転管理者の業務の拡充
皆さん、道路交通法施行規則の一部改正が令和4年4月1日、同年10月1日に順次施行されることをご存じですか。法改正により、自家用自動車を一定の台数以上使用する事業所においては、事業所の運転者に対する酒気帯びの有無を確認・記録するとともに、アルコール検知器を用いて酒気帯び確認を行うことが義務付けられました。今回は、道路交通法施行規則の改正の内容とその対応について、お話しします。
2 安全運転管理者制度とは?
安全運転管理者制度とは、一定台数以上の自家用自動車を使用する場合に、自動車の安全運転と運行に必要な指導や管理業務を行わせるため、自動車の使用者(事業者など)が、安全運転管理者とそれを補助する副安全運転管理者を選任して、事業所等における安全運転管理の責任の明確化と交通事故防止体制の確立を図ることを目的とした制度です。自動車の使用者は、以下のいずれかに該当する各事業所において、「安全運転管理者」とその業務を補助する「副安全運転管理者」を選任し、選任から15日以内に公安委員会に届出なければなりません。安全運転管理者の選任義務に違反した者は,5万円以下の罰金に処せられます。
⑴安全運転管理者を選任する必要がある場合
・自家用自動車を5台以上使用している(大型自動二輪車・普通自動二輪車(50ccを超えるもの)は0.5台として計算する。)。
・乗車定員11人以上の自家用自動車を1台以上使用している。
⑵副安全運転管理者を選任する必要がある場合
・自家用自動車を20台以上使用している。
3 アルコール検知器の導入が必要!?
改正前には、酒気帯びの有無の確認方法の具体的な定めがなく、確認内容を記録することは義務付けられていませんでした。改正法では、令和4年4月1日施行の部分で、安全運転管理者の業務として、「運転しようとする運転者及び運転を終了した運転者に対し、酒気帯びの有無について当該運転者の状態を目視等で確認すること」、「確認の内容を記録し、及びその記録を1年間保存すること」が明確に定められました。そして、同年10月1日施行の部分で、運転者の状態を目視等で確認するほか、「アルコール検知器を用いて確認を行うこと」、「アルコール検知器を常時有効に保持すること」が義務付けられました。事業者は、10月1日までにアルコール検知器を確保する必要があります。また、アルコール検知器を「常時有効に保持」とは、正常に作動し、故障がない状態で保持することを意味しますので、定期的に故障の有無を確認する必要があり、故障に備えて、予備を用意しておく必要もあるかもしれません。
4 事業所を出入りするたびにアルコール検知器によるチェックが必要か?
最近、「営業のために頻繁に従業員が社用車で出入りするが、その運転の直前直後にその都度酒気帯びの有無を確認しなければならないのか。」という相談がありました。通達では、「運転しようとする運転者及び運転を終了した運転者」における「運転」とは、一連の業務としての運転をいい、酒気帯び確認は、必ずしも個々の運転の直前又は直後にその都度行わなければならないものではなく、運転を含む業務の開始前・出勤時、及び終了後・退勤時に確認することをいうと解されています。通達の解釈によると、頻繁に社用車の出入りがあるとしても、業務の開始時・終了時、あるいは、出勤時・退勤時に酒気帯びの有無の確認を行えばよいということになります。
5 飲酒運転と使用者の責任
従業員が、業務中に飲酒運転で交通事故を起こした場合、基本的に不法行為の要件を満たし、従業員は被害者に対して損害賠償責任を負います。また,業務中の事故であれば,企業も、使用者責任等により損害賠償責任を負うリスクがあります。死亡事故の場合、賠償金が多額になる可能性がありますので、従業員はもとより、会社も各種任意保険への加入が必要です。保険の契約上、飲酒運転の場合に保険金が支払われるかどうかを確認しましょう。
6 飲酒運転撲滅と企業への社会の期待
令和3年6月28日に千葉県八街市で発生した飲酒運転により児童5人が死傷した事故を受けて、今回の法改正がなされたようです。今後、業務中の酒気帯び運転による事故が発生した場合、事業者が安全運転管理者の選任等の義務を履行していなかった際に、社会から強い非難を浴びる可能性があることは明白です。見方を変えると、飲酒運転撲滅のために企業の協力が期待されています。対象となる事業者は、法改正の意義を理解し、適切な対応が必要です。道路交通法に限らず、法改正への対応については、弁護士にご相談ください。