法律が改正されたことにより、これまで支払っていた残業代よりも多くの残業代を支払わなければならなくなると聞きました。どのように法律が改正されたのか教えてください。また、時間外労働を削減するために意識すべきことがあれば教えて下さい。
(回答)
1 割増賃金に関する法改正
労働基準法の改正により、令和5年4月1日から、中小企業においても、1ヶ月の労働時間が60時間を超えた場合の割増賃金率を5割以上としなければならなくなります。つまり、時間外労働が多い企業は人件費が増加することになります。
もっとも、支払うべき残業代が増えるから時間外労働を減らせばよいという安直な考えは非常に危険です。
2 長時間労働に内在するリスク
長時間労働抑制の本質は企業にとって致命的なリスクを回避することにあります。すなわち、長時間労働に起因する過労死、業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺は、廃業に繋がりうる重大な問題であり、企業内部の問題にとどまりません。具体的に言うと、過労死が起きた場合、刑事罰や事業場名が公表され、社会的信用の失墜に繋がります。さらに、それによって新規採用にも影響が出ます。そして、過労死した従業員の遺族に対する民事上の責任も負うことになるのです。
また、精神障害による退職などのメンタルヘルスの問題も増加しています。当然ながら、長時間労働に伴って睡眠時間が確保できなくなります。睡眠時間とメンタルヘルス不調には密接な関係があり、睡眠時間の減少はメンタルヘルス不調者の発生頻度を高めると言われています。
3 残業時間の目安を知ることが重要!
労働基準法では、36協定における時間外労働は月45時間・年360時間を原則としています。ただし、臨時的な特別の事情があって36協定に「特別条項」を設ける場合には、①月45時間を超える特別条項が適用される月数は1年について6ヶ月(6回)まで、②1年の時間外労働の上限は720時間、③1ヶ月の時間外労働は休日労働を含めて100時間未満、④複数月の平均で、時間外労働等休日労働の合計時間は80時間以内、といった要件の範囲内の時間外労働は認められています。
また、時間外労働時間が月45時間を超えて長くなるほど疾病と業務との関連性が強まるため、労災認定されやすくなると考えられています。
このような労働基準法の規制や労災認定の運用からすれば、時間外労働の目安は月45時間以内、1日当たり2.25時間以内と考えるべきです。
もっとも、繁忙期や一時的な人員の不足などの理由により、1年のうちに何ヶ月かは月に60時間以上の時間外労働が必要な場合もあるでしょう。そのため、普段はできるだけ時間外労働を減らすように努め、繁忙期に必要な時間外労働ができるよう労働時間を管理することが重要です。
それによって、長時間労働によるリスクを抑えつつ、余分な人員を増やすこともなく人件費を維持することができます。また、具体的な数字が明確になれば、その数字を達成することができるよう意識して残業時間を削減することも容易になるでしょう。
従業員の労働時間の把握や管理についてお悩みの方は、ぜひ弁護士にご相談されることをお勧めします。