当社では,多くの従業員が自転車で通勤しています。従業員が自転車で通勤中に交通事故を起こした場合,会社も責任を負うことがあるのでしょうか。
(回答)
公共交通機関や自動車で通勤していた人が,通勤ラッシュや渋滞がない,運動になる,環境にやさしいなどの理由で自転車通勤にするということもあるようです。また,いわゆるコロナ禍において,公共交通機関を避けたいという思いから自転車通勤にする人も少なくないと聞きます。
1 使用者責任
従業員が加害者となる交通事故であっても,事故が会社の事業の執行について発生したといえる場合,会社も損害賠償責任を負います(使用者責任,民法715条1項)。例えば,従業員が社用車に乗って業務中に交通事故を起こした場合であれば,事故が事業の執行について発生したといえ,使用者責任が成立することになるでしょう。
それでは,従業員の自転車通勤中の交通事故は,事業の執行について発生したといえるでしょうか。通勤に限っていえば,従業員があくまでも個人的な便宜のために自転車を通勤に利用していたということであって,事業の執行について発生したとはいいにくいのではないかと思います。
ただし,自転車が業務にも利用されていて,会社もそれを容認していたというような場合は,事情が異なってきます。この場合,自転車が社用車に近くなってくるためです。したがって,会社としては,従業員の交通安全意識を高めるだけでなく,通勤用の自転車は業務に利用しないように徹底する必要があるといえます。
2 自転車事故の損害額
ところで,自動車事故と比較すると,自転車事故は損害額が小さいイメージがあるかもしれません。一般的に,自動車事故の方が衝撃も大きいでしょうから,発生する損害も重大になり,損害額も大きくなる傾向があるとはいえます。
しかし,損害額は発生した損害によって決まるのであって,自動車だから,自転車だからということによって決まるわけではありません。自転車事故であっても,後遺障害事案や死亡事案になれば,損害額が数千万円に上ることもあるのです。
最近は,スポーティーな自転車がかなりのスピードで走行しているのを見て,ちょっと怖いなと感じることもあります。接触や衝突の仕方によっては,十分に危険だと思います。
3 自転車保険
そうすると,自転車であっても自動車と同じような保険に加入しておく方がよいですし,加入しておくべきだということになります。
岡山市では,令和3年4月1日から,自転車利用者や事業者に対して自転車保険の加入を義務づける条例が施行されました。罰則はありませんが,この機会に,会社の自転車には自転車保険をかけ,自転車通勤の従業員には自転車保険の有無を確認しておくのがよいと思います。
お困りの際は,弁護士にご相談ください。