ある日,甲社の社長乙は,丙との契約を解消するために法的にどのような手段が採れるかを相談しに法律事務所を訪れました。乙が丁弁護士に対し「甲社と丙は業務委託契約を締結しているので,丙は雇用契約を締結している従業員ではありません。」といったところ,事情をきいた丁弁護士からは「甲社と丙の関係は雇用契約ですので,契約の解消は解雇の問題になりますよ。」いわれました。業務委託契約とは一体どのような契約なのでしょうか?
(回答)
1 業務委託契約の法的性質
自己の業務の一部を外部委託することを一般に業務委託といいます。そうした契約について業務委託契約という標題をつけている契約書を頻繁に目にします。しかし,契約の法的性質は,契約書のタイトルや形式で決まるわけではありません。契約内容に照らして,客観的に判断されることになります。
業務委託契約の法的性質として考えられる契約類型は,委任契約や請負契約があります。また,相談事例のように,あくまで外部に業務を委託しているつもりでも,たとえば,従業員と同一の場所・時間業務に従事しており,業務内容の一部が異なるのみといった場合には,法的性質は雇用契約であると判断される場合があります。
2 契約類型による違い
契約類型によっては,適用される法令などに違いが生じます。たとえば,契約関係を解消する場面において違いがあります。当事者が契約を中途解除したい場合,請負では注文者からの解除はできますが,請負人からの解除は認められていません。これに対して,委任では,原則として当事者はいつでも契約を解除することができます。雇用では,使用者からの契約の解除は,解雇にあたり,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は無効となります。
その他受託者の義務の内容や報酬請求権の有無などあらゆる点で違いが生じます。雇用では労働基準法その他の労働関係法令に基づくあらゆる規制に服することになるとともに,社会保険,雇用保険及び労災保険等の各種保険の加入義務が課されることにもなります。
3 契約書によるリスク管理
契約書の役割は,合意の内容を書面に記載して客観的証拠とすることで後の紛争を防止するとともに,紛争が生じた際の解決方法を定めておくことで紛争が生じた際のリスクを最小化する点にあります。しかし,契約類型を誤った契約書を作成してしまっては意味がありません。実際の契約がどの法的性質を有するかは判断が難しい場合がありますので,専門的な判断が必要となることに注意が必要です。