連日,某芸能人のいわゆる「闇営業」問題が報道されていますが,法律上何か問題があるのでしょうか?
(回答)
1 「闇営業」とは?
「闇営業」は,芸能事務所に所属している芸能人が,事務所を通さずに行う営業という意味で用いられているようです。
では,闇営業は,違法行為なのでしょうか。
これは,芸能事務所と芸能人との契約内容の問題です。すなわち,芸能事務所と芸能人との契約において,芸能事務所を通さない営業活動が禁止されていたとすれば,闇営業は契約違反となりますし,逆に,禁止されていなければ,何の問題もありません。
なお,芸能事務所と芸能人との間で,契約書が取り交わされていないことが問題視されていますが,法律上は,契約書を取り交わさないことが直ちに違法とはなりません。契約は,原則として,口頭で成立するからです。芸能事務所と芸能人の契約は,請負契約や業務委託契約になるのではないかと思われますが,これらの契約は,法律上,契約書を取り交わすことが要求されていませんので,契約書がなくとも法律上特に問題はありません。ただ,芸能事務所と芸能人の契約に,下請法(下請代金支払遅延等防止法)が適用されると,芸能事務所が芸能人に書面を交付しなければならなくなります。すなわち,親事業者の資本金が1000万円を超えて5000万円以下である場合であって,下請事業者の資本金が1000万円以下の場合は,下請事業者を保護する観点から,「下請事業者の給付の内容,下請代金の額,支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。」とされています(3条)。いずれにしろ,契約書がないと,何らかの問題が発生したとき,言った言わないの水掛け論になり,紛争に発展しやすいので,契約書があるに越したことはありません。
2 「闇営業」の相手方が反社会的勢力だったときは?
では,闇営業の相手方が反社会的勢力であったとしても,法律上,何の問題もないのでしょうか。
この点,芸能人が,反社会的勢力から,金銭を受け取っていたとなると,組織犯罪処罰法違反になる可能性があります。
組織犯罪処罰法では,「情を知って,犯罪収益等を収受した者は,三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。」と定められています(11条)。
今回,芸能人は,特殊詐欺グループの会合へ出席し,何らかの芸を披露して金銭を得ています。そして,その金銭は,詐欺(刑法246条)によって得た金銭と思われますので,そうであれば,かかる金銭は「犯罪収益等」に該当します。
また,「情を知って」とは,前提となる犯罪の行為状況及び収受に係る財産がその前提となる犯罪に由来することの認識を意味すると考えられており,その行為が違法であることの認識までも求めているものとは解されていません。問題となっている芸能人は,特殊詐欺グループの会合であることを知らなかった等と述べており,他方,特殊詐欺グループ側は,芸能人が特殊詐欺グループの会合だと気付いていたはずだ等と述べており,見解が対立しています。いずれが真実かは分かりませんが,仮に,芸能人が,会合で芸を披露した対価が詐欺によって違法に獲得されたものであることを知っていた,又は知り得たのであれば,組織犯罪処罰法違反になると考えられます。
もっとも,組織犯罪処罰法11条違反は,3年で時効になりますので,芸能人が特殊詐欺グループから対価を得てから3年が経過していれば,法律上,罪に問われることはありません。
3 暴力団排除条例
闇営業の相手方が反社会的勢力であった場合,反社会的勢力から対価を受け取っていたことが,暴力団排除条例に違反する可能性があります。
暴力団排除条例は,都道府県事に内容が異なりますので,岡山県の暴力団排除条例を例にとって考えてみたいと思います。
岡山県暴力団排除条例15条では,「事業者は,その行う事業に関し,暴力団の活動を助長し,又は運営に資する目的で,暴力団員等又は暴力団員等が指定する者に対し,金品その他の財産上の利益を供与してはならない。」と定めています。
仮に,特殊詐欺グループが暴力団によるものであったとすると,芸能人が芸を披露したことが,暴力団への利益供与に当たる可能性があり,芸能人の認識によっては,暴排条例違反となる可能性があります。
4 脱税
芸能人が,特殊詐欺グループの会合に参加して金銭を受け取っていたとすると,それは,芸能人の売上げになります。これを申告していなければ,いわゆる脱税にあたり,重加算税や延滞税を課される可能性があります。
このように,闇営業問題は,闇営業の相手方が反社会的勢力であるとすると多くの法的問題が発生します。
そして,反社会的勢力との関係に配慮すべきは,私たちも同じことです。相手方が反社会的勢力であるとの疑いを覚えたときは,暴力団追放運動推進センターなどの助力を求めることもできます。
今回の一連問題を機に,反社会的勢力との関係については,今一度,注意を払いたいものです。