相続法改正③(生前贈与・寄与分)

(質問)
相続法が約40年ぶりに改正されると聞きましたが、具体的にどのように変わるのでしょうか?

(回答)

1 遺留分制度とは?
遺留分制度とは,相続人の相続に対する期待を保護するという観点から,一定の範囲の法定相続人(配偶者,子,直系尊属)に対し,最低限の遺産の取得を保障するという制度のことです。
この遺留分は,遺言によっても侵害することはできません。そのため,遺言書で「長男にすべての財産を相続させる。」としていたとしても,次男が遺留分を請求すれば,これを渡さなければならないのです。
さて,遺留分の一般的な割合は,直系尊属のみが相続人である場合は相続財産の3分の1,その他の場合は相続財産の2分の1です(以下「相対的遺留分」といいます。)。そして,相続人各自の個別的な遺留分は,相対的遺留分割合に各自の法定相続分の割合を乗じたものとなります。
具体例で考えてみましょう。例えば,相続人が,配偶者と子供2人(長男,次男)であったとします。この場合,相対的遺留分は,2分の1となります。次に,配偶者の遺留分は,2分の1に,配偶者の法定相続分2分の1を乗じた4分の1となります。また,長男及び次男の遺留分は,2分の1に子供の法定相続分4分の1(子供の法定相続分2分の1を,長男及び次男の間で等しく分けた割合)を乗じた8分の1となります。そのため,相続財産が1000万円であったとすると,配偶者の遺留分額は250万円,長男及び次男の遺留分額は125万円となります。

2 遺留分制度の改正
さて,実際に遺留分を算定するにあたっては,遺留分算定の基礎となる財産を確定しなければなりません。今回の相続法改正では,遺留分を算定するための財産の価格に算入される生前贈与に関する規定が改正されました。
遺留分算定の基礎となる財産額は,被相続人(亡くなった方)が相続開始時に有していた財産額+贈与財産の価格-相続債務の全額となります。この「贈与財産の価格」につき,現行法は「相続開始前の一年間にしたものに限」ると定めています。ただ,判例上,これは,相続人以外の第三者に対して贈与がなされた場合に適用されるものであり,相続人に対して生前贈与がされた場合には,その時期を問わずに遺留分を算定するための財産の価額に算入されると判断されています。そのため,被相続人が,相続開始(死亡)から何十年も前にした相続人に対する贈与によって,遺留分侵害額が変わるということになります。
しかし,被相続人が,相続開始から何十年も前にした相続人に対する贈与など,容易に証明できるものではありません。そこで,紛争が長期化する事案が多く見受けられました。
そこで,改正相続法では,遺留分を算定するための財産の価格に算入される生前贈与につき,これが相続人に対するものであれば,原則として相続開始前10年以内になされた特別受益に該当する生前贈与に限定することとしました。なお,第三者に対する生前贈与については,現行法と同じく,原則として,相続開始1年以内になされたものに限定されています。
これにより,紛争の早期解決がもたらされることが期待されています。

3 寄与分制度とは?
共同相続人中に,被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者がある場合に,他の相続人との実質的な衡平を図るため,その寄与相続人に対して相続分以上の財産を取得させる制度のことです。
例えば,被相続人に2人の子供がおり,そのうち1人は,家業を手伝い被相続人の財産の維持・増加に多大な貢献をしましたが,他方は,早くに家を出て生活し財産の維持・増加に何ら貢献しなかったとします。このように,被相続人の財産の維持・増加に対する貢献の度合いに差がある2人が,平等に被相続人の財産を相続するとしますと,両者の間に不公平が生じます。そこで,両者間の衡平を図るべく,寄与分という制度が設けられています。

4 寄与分制度の改正
先述べましたとおり,寄与分は,現行法では,相続人のみ認められています。そのため,例えば,相続人の妻が,被相続人(例:夫の父親)の療養看護に努め,被相続人の財産の維持又は増加に寄与した場合であっても,かかる妻が,寄与分を主張したり,何らかの財産の分配を請求したりすることはできませんでした。
しかし,これでは,被相続人の療養看護等を全く行わなかった相続人が遺産の分配を受ける一方,実際に療養看護等を務めた者が相続人でないという理由だけで遺産の分配を受けることができず,不公平だと感じる方が多くいらっしゃいました。
そこで,改正相続法では,「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族」は,相続の開始後,相続人に対し,特別寄与料の請求ができると定められました。このように,被相続人の「親族」,つまり6親等内の血族,配偶者及び3親等内の姻族に,特別寄与料の請求が認められるようになったのです。
なお,特別寄与料の請求は,まずは相続人に対して行いますが,そこで協議が整わなければ,家庭裁判所に対し,処分を求めることができます。ただし,かかる請求は,特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月以内,かつ相続開始時から1年以内にしなければなりません。機関制限があるという点については,注意が必要です。