相続法が約40年ぶりに改正されると聞きましたが、具体的にどのように変わるのでしょうか?
(回答)
1 法律の公布? 施行?
平成29年5月26日,民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が成立しました(同年6月2日公布)。そして,一部の規定を除き,平成32年(2020年)4月1日から施行されます。
さて,法律の「公布」や「施行」という言葉は聞き慣れない言葉かと思いますので,初めに,法律の成立から施行までの流れにつき,簡単にご説明をさせて頂きます。
まず,法律は,原則として,衆議院及び参議院の両議院で可決したときに法律となります。そして,法律が成立したときは,後議院の議長から内閣を経由して天皇に同法律の公布が奏上されます。
法律は,この奏上がなされた日から30日以内に,天皇によって公布されます。公布とは,成立した法令を広く一般に周知させる目的で当該法令を公示する行為をいいます。公布は,官報に掲載されることによって行われることがほとんどです。
ただ,法律が効力を有するのは,公布日ではなく,法律が「施行」された日です。施行日は,法律で定められます。法律の施行については,一般的に国民への周知という観点から一定の期間を置くことが望ましいと考えられています。
ただ,法律を施行するための準備や周知のための期間が必要ないと考えられる場合や緊急を要する場合には,即日施行されることもあります。民法改正は,国民の社会生活に与える影響が大きく,準備のための期間が必要ですので,法律の公布から施行までの間に3年弱という長い期間が設けられています。
2 配偶者居住権とは
今回の相続法改正においては,配偶者の権利が大きく拡大されています。
その中の1つが,配偶者居住権です。例えば,夫が死亡し,妻と子供2人が相続人である場合,法定相続分は,妻が2分の1,子供がそれぞれ4分の1となります。このとき,相続財産を法定相続分どおりに分けようとすると,相続財産の中に現預金が少なければ,自宅を売却せざるを得なくなります(詳細は,後述します。)。しかし,妻にとって,住み慣れた建物から引っ越し,新たな生活を始めることは,肉体的にも精神的にも大きな負担となります。そこで,相続法の改正により,配偶者居住権という権利が創設され,配偶者が住み慣れた家に居住し続けることを容易にする改正がなされました。
3 配偶者居住権が認められるための要件
配偶者居住権とは,被相続人(お亡くなりになった人)の配偶者が,遺産である建物に相続開始時(死亡日)に居住していた場合であって,①遺産分割で配偶者居住権を取得すると決まったとき,又は②配偶者居住権が遺贈されたときは,その建物を無償で使用収益する権利(=配偶者居住権)を取得できるというものです。
配偶者は,建物に「住む」ということを重視していると思われますので,建物を「所有」することに対するこだわりは大きくないと考えられます。そこで,建物の価値を,居住権部分とこれを除く部分とに分け,遺産分割の際に,配偶者が,建物の居住権部分(配偶者居住権)を取得することで,建物を取得する場合に比べて安価で居住権を確保できるようになりました。
具体例で考えてみましょう。夫が亡くなり,妻と子供2人が相続人というケースです。遺産は,自宅の土地建物が5000万円,現金が3000万円です。この場合,妻が,建物に住み続けたいと考えれば,現行法では,妻は,4000万円,子供はそれぞれ2000万円を相続することになりますので,不動産の価値5000万円と妻の法定相続分4000万円との差額である1000万円を子供たちに支払わなければなりません。妻が,妻が現金を保有していれば1000万円を支払うことも可能でしょうが,そうでなければ,結局,建物を売却等し,その代金を法定相続分に従って分けるなどの方法をとるしかありません。
しかし,改正法では,5000万円の不動産の価値を居住権部分とそれ以外の部分に分けて相続することが可能となりました。そのため,不動産の居住権の価値が仮に3000万円であったとすると,妻は,相続により,建物の居住権3000万円に加えて1000万円の現金を手にすることができます。そして,子供達は,建物所有権1000万円に加え,現金1000万円を取得します。
このように,配偶者居住権が認められることによって,妻は,長年住み続けた家に無償で住み続けられるのみならず,老後の生活資金として,現金まで取得できるのです。
また,配偶者居住権は,配偶者が亡くなるときまで存続します。配偶者居住権は,あくまで配偶者が住み慣れた家に住み続けるために認められたものですので,この権利を第三者に譲渡することはできません。そして,所有者の許可を得ず,建物を改築若しくは増築したり,第三者に使用収益させたりすることもできません。