当社はある顧客から2階建ての建物工事を受注しました。この建物は、1階を注文主が事務所店舗として貸し、2階を注文主の自宅として設計されています。順調に工事は進んでいたのですが、当社にトラブルがあり、この建物の完成が3か月ほど遅れてしまいました。
そうしたところ、注文主から、1階の3か月分の家賃100万円と、2階への入室が遅れることで余計な費用がかさんだとして、合計200万円の損害賠償請求をされました。
当社はこの請求金額の全額支払いに応じなければならないのでしょうか。
(回答)
1 損害賠償義務
まず、本件工事の完成が遅れた原因は貴社にあるようですので、貴社は債務不履行(履行遅滞)に基づき損害賠償義務を負担しなければなりません。では、かかる損害賠償義務は200万円全額に及ぶのでしょうか。
損害賠償義務は、相手方に通常生じた損害(通常損害)に加え、当事者があらかじめ知ることができた特別事情に基づく損害(特別損害)にも及びます(民法第416条)。
そして、本件における通常損害とは、当該建物を使用収益できないことによって生じる不利益であり、本件においては、当該建物を建てている間に注文主が他のマンションやアパートを借りて住んでいた場合の賃料相当額等がこれに当たります。
2 特別損害とは
次に、注文主が完成建物の1階を他人に貸すことで得られる予定だった賃料ですが、これは特別損害に含まれます。そして、特別損害は、「当事者がその事情を予見し、又は予見することができたとき」に賠償義務が発生します(民法第416条第2項)。
ですので、貴社が設計図を見て1階が事務所店舗とされていることが分かる場合や、注文主との打ち合わせにおいて1階は事務所用店舗と貸すなどと注文者から伝えられていれば、貴社は特別損害を予見することができたとして賠償義務を負担することになります。
他方で、かかる特別損害が成立するためには、建物完成予定日の翌日から実際に1階に第三者が入室することが確実であることが必要です。
以上より、貴社の賠償義務は、上記の前提の基で、具体的事実や諸事情を勘案して決められることになります。
3 損害賠償の範囲
貴社は、顧客が2階に入室することが遅れたことに伴う損害を賠償する義務を負います。
また、顧客が完成予定の建物の1階を事務所店舗として貸すことを予見し得たと解されるリスクがあるので、実際に1階に入居者が現れないことの反証に成功しない限り、200万円の損害賠償が認められるリスクがあると言わざるを得ません。