当社は、製品開発の仕事を行っているのですが、同業会社Yから、当社がY社の営業秘密を盗用したこと、その営業秘密の使用の差止めと損害賠償請求を請求する旨の通知が届きました。
当社にはどのようなリスクがあるのでしょうか。
(回答)
1 差止請求とそれに対する事実確認
Y社は、貴社に対して、当該情報を利用した販売活動の差止めを求めることとなりますが、まずは、貴社に対してその旨を記載した警告状を送付することが多いと考えられます。
これに対し、貴社は、Y社の主張に対して、営業秘密侵害の事実確認を行うことになります。
2 損害賠償額
貴社が他社の営業秘密を侵害すると、次のとおり、損害賠償額が容易に認定されたり、その額が多額になるというリスクがあります。
ア 原則は被侵害者の利益
「損害額=Y社の損害」
しかし、Y社が得べかりし利益を立証することは一般的に困難といえます。
イ 侵害者の利益
「損害額」=「貴社の利益」
貴社が営業利益の侵害により利益を受けているときは、Y社の販売能力を超えない限度において、その額が損害額と推定されます。
例えば、貴社が1,000万円の利益を上げていれば、Y社は1,000万円の損害を受けたものと推定されてしまいます。
もっとも、推定規定なので、商品の用途や需要者の違い、貴社の商品の購買力が独自の要素に起因することなどを理由として推定が覆る可能性はあります。
ウ ライセンス料相当額
「損害額」=「ライセンス料相当額」
Y社の損害額の算定については、営業秘密のライセンス料と推定されます。
例えば、貴社の売上が5,000万円で、当該営業秘密のライセンス料率の相場が売上高の15%であれば、750万円がY社の損害と推定されてしまいます。
3 営業秘密侵害罪
不正の利益を得る目的又は営業秘密の保有者に損害を与える目的で行った営業秘密の不正取得・領得・不正使用・不正開示のうちの一定の行為を行うと、10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金(又はその両方)に処せられるリスクがあります。
日本国内で管理されていた営業秘密を、国外で不正使用又は不正開示した場合も処罰されます。
一部の営業秘密侵害罪については、法人の業務として行われた場合、行為者が処罰されるほか、法人も3億円以下の罰金となります。
4 営業秘密保護強化の動き
営業秘密の侵害については、平成27年の不正競争防止法の一部改正により、営業秘密の取得者の処罰範囲の拡大(3次取得者以降も処罰の対象にする。)、未遂行為の処罰、非親告罪化、生産技術等の不正使用の事実について侵害者が違法に取得した技術を使っていないことを立証しなければいけないとの立証責任の転換等の営業秘密の保護強化の動きがあります。
5 まとめ
貴社がY社の営業秘密を侵害すると、多額の損害賠償を負うとともに、刑事罰を被るリスクがあります。
そこで、貴社としては、Y社の営業秘密を実際に侵害しているかどうかの調査を行い、侵害している事実が認められれば、早急に是正措置を講じるほか、Y社と和解交渉に入るべきです。
また、貴社は、中途採用者等に対し、前職の会社の営業秘密を貴社において使用しない旨の誓約書を提出させるなどの予防措置を採るべきです(混入(コンタミネーション)対応)。