債権回収の方法

(質問)
 当社は、Y社に400万円の売掛金がありますが、Y社は支払期日までに支払ってくれません。Y社に何度も支払いの催促をしているのですが、来月までには支払うと言って一向に支払ってくれません。
 当社はどのように対応すればよろしいでしょうか。   

(回答)

1 債権回収リスク
 会社は売掛金、請負代金等を回収してはじめて経営が成り立ちます。
 特に、中小企業においては、取引先が自己破産開始手続に入ってしまい、多額の売掛金が回収不能になることは、大きなダメージとなります。
 例えば、ご質問のケースのように、400万円の債権が回収不能になった場合、その400万円の穴埋めをしようとすると、通常数千万円の売り上げが必要になるため、会社としては大変大きなリスクになります。
 その意味で、企業とすれば、これから取引を行う場合は極力慎重にならざるを得ませんし、また、継続的な取引であっても常にアンテナを張って、取引先の信用状況に気を配る必要があります。
 経営法務では、一般的に迅速性と手段の妥当性が要求される場合が多いのですが、こと債権回収については、特に迅速性と手段の妥当性が要求されることになります。
 債権回収の方法は、ケースバイケースで、コストと時間も考慮に入れて、最適の方法を採ることを弁護士と検討することになります。

2 未払いが発生してしまった場合
 ア 任意の交渉
  ①請求書等を送付する。
   配達証明付内容証明郵便を使うのが良いです。
   配達証明付内容証明郵便は、いつ、どのような内容の文書を送付したのかを示す証拠となるもので、日本郵便株式会社が証明してくれる  ものです。
   加えて、配達証明付内容証明郵便が郵送される場合、債務者に対する心理的圧迫にもなりますので、債務の任意の弁済を促すという効果  が期待できます。
    
  ②債務確認書(念書・示談書)を取る。
   債務確認書とは、債務者が負担している債務の額を確認する書面のことです。債務確認書を取ると、契約書がない場合は立派な証拠とな  りますし、時効中断事由としての「承認」にもなります。
   債務者が分割払いに応じてくれる場合にも、後で紛争になることを防止するため、合意内容を書面化した念書・示談書を取るようにしま  しょう。その際は、支払額と支払日が明確になるように定めてください。
   費用はかかりますが、念書・示談書などを公正証書にすると、裁判所で勝訴判決をもらわなくても、その公正証書に基づいて強制執行が  できます。

 イ 在庫商品からの回収

  ①自社商品を引き揚げる。
   貴社が取引先に商品を売買した場合、売買契約書等に、所有権留保の規定を定めておくと、貴社は、一定の場合に、留保した所有権に基  づき、自社商品を引き揚げることができます。所有権留保とは、売買した商品について、買主が代金を完済するまで、所有権を売主に残し  ておくという合意です。
   ただし、自社商品を引き揚げる場合にも、取引先から、自社商品を引き揚げることと、そのために取引先の倉庫等に立ち入ることについ  て同意をもらって、引き揚げの際には、立ち会ってもらう必要があります。その際、後で紛争になるリスクを避けるため(住居侵入罪や窃  盗罪に問われないように)、書面で同意書をもらったり、引き揚げた商品の明細の確認書を書面でもらう必要があります。

  ②取引先所有の在庫商品により代物弁済を受ける。
   取引先に自社商品がない場合でも、取引先に、取引先所有の在庫商品があれば、本来の弁済の代わりにその商品で弁済してもらうことも  考えられます。
   この際に気をつける点も、上記①と同様です。代物弁済であることを明確にした書面も作成することが重要です。
   もっとも、他社が売却した商品の場合、他社の所有権留保等が付いている場合も考えられます。その場合は、後で紛争になるリスクを避  けるため、取引先の担当者に権利関係を確認することが重要です。

 ウ 法的措置
   その他、法的措置としては、①支払督促、②少額訴訟、③通常訴訟、④民事調停、⑤保全執行、⑥強制執行等が考えられます。

3 まとめ
 貴社は、Y社に足を運んで、Y社の現状を把握して、自社製品の引揚げ等が可能であるかを検討します。
 また、Y社の事業が継続しているようであれば、仮差押できる財産がないかどうか、また、Y社が財産を他に処分しようとしている状況が窺えたら、処分禁止の仮処分を行うことを検討します。
 Y社がどうしても取引を打ち切られたくないというのであれば、売掛金について、Y社の代表者の個人保証を取るか、集合物譲渡担保の設定等も検討することになります。