親族内承継の注意点

(質問)
 当社では、社長が65歳になったものの、長男で専務取締役のAには未だ株式を譲渡していません。社長の妻と次男Bは、当社の経営には携わっていません。社長に万が一のことがあれば、会社はどうなるか心配で、取引先や従業員からも不安の声が出始めています。
 なお、当社の株式はすべて社長が保有しています。
 当社とすれば、今後、どのように事業承継を進めていけば良いでしょうか。

(回答)

1 事業承継をめぐる状況
 日本政策金融公庫総合研究所が平成28年に公表した調査によれば、調査対象企業約4,000社のうち60歳以上の経営者の約半数(個人事業主に限っていえば約7割)が廃業を予定していると回答しています。そして、廃業の理由については、「当初から自分の代限りで辞めようと考えていた」が38.2%、「事業に将来性がない」が27.9%、「子供に継ぐ意志がない」「子供がいない」「適当な後継者が見つからない」といった後継者難を挙げる経営者が合計で28.6%に達しています。
 平成27年に中小企業庁が実施した調査によれば、実際に事業承継の準備に着手している企業は70代、80代の経営者ですら半数に満たない状況です。そして、この準備に着手していない中小企業の中には、そもそも事業承継に向けた準備の重要性を十分に認識できていない中小企業も多数存在しているものと考えられるところです。

2 事業承継の重要性
 中小企業においては、社長の「わしの目が黒いうちは」的な感覚や後継者への信頼の程度等のさまざまな理由から、株式の譲渡がスムーズに進んでいないケースが多々見られます。
 ご質問のケースで、仮に社長が急死してしまうと、専務のAと社長の妻、次男Bはそれぞれ3分の1の法定相続分を有することになり、後継者であるAが役員からはずされてしまうリスクがあります。
 また、株価が高いままで、社長が亡くなると、Aらが相続税の支払に困るリスクも生じます。
 社長は、65歳になった以上、株式の譲渡のみならず、経営の承継も含めて、後継者のAに事業承継を計画的に行う必要があります。

3 事業承継の方法
 事業承継は、次に述べるような会社の状況を判断することが必要です。
 その上で、当該オーナーや会社の実情に応じた事業承継の計画を立てます。

 ア 会社の経営資源の状況
   従業員の数、年齢等の現状
   資産の額及び内容やキャッシュフロー等の現状と将来の見込み 等

 イ 会社の経営リスクの状況
   会社の負債の現状
   会社の競争力の現状と将来見込み 等

 ウ 経営者自身の状況
   保有自社株式の現状
   個人名義の土地・建物の現状
   個人の負債・個人保証等の現状 等

 エ 相続発生時に予想される問題点
   法定相続人及び相互の人間関係・株式保有状況等の確認
   財産の特定・相続税額の試算・納税方法の検討 等

 オ 後継者候補の状況
   親族内に後継者候補がいるか
   社内や取引先等に後継者候補がいるか
   後継者候補の能力・適正はどうか
   後継者候補の年齢・経歴・会社経営に対する意欲はどうか 等

4 遺留分減殺対策
 社長とすれば、Aに対して、会社の株式を段階的かつ計画的に生前贈与する方法が一般的ですが、そうすると、Aは、非後継者の妻、次男Bから遺留分減殺請求を行使されるリスクがあります。
 そこで、遺言で妻、次男Bに一定の預金等を相続させることで、遺留分減殺請求を行使させないようにすることも考えられます。
 また、後継者のAに通常の株式を相続させる一方で、非後継者の妻、次男Bには議決権制限株式を相続させることも有効です。

5 まとめ
 事業承継は、経営の承継と株式の承継があります。
 貴社においては、まずは、社長にAに対する事業承継の必要性を理解してもらうことが必要になります。その上で、社長からAに経営の承継を行う必要があります。
 同時に、社長の株式の評価、株式以外の財産の評価、社長の退職時期、退職金額等を踏まえて、Aへの事業承継計画を立てて、株式の承継を実行していくとともに、万が一に備えてAに株式を相続させる旨の遺言も作成する必要があります。