競業取引・利益相反取引の注意点を教えてください。
(回答)
1 取締役会の承認と取締役会への報告
取締役が自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき(競業取引)や、取締役が自己又は第三者のために会社と取引をするなど会社と利益が相反する取引をしようとするとき(利益相反取引)には、取締役は取締役会に対し、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければなりません。
さらに、競業取引又は利益相反取引を行った取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません。
2 競業取引とは
会社の事業の部類に属する取引(競業)とは、会社が実際に行っている取引と目的物(商品・役務の種類)及び市場(地域・流通段階等)が競合する取引のことです。
取締役が競業会社の代表取締役等に就任していなくても、その株式を多数保有し事実上の主宰者として経営を支配した場合には、第三者(競業会社)の名において自己の計算で取引した等と認められる場合があります(東京地方裁判所昭和56年3月26日判決、大阪高等裁判所平成2年7月18日判決)。
3 利益相反取引とは
①取締役が当事者として、又は他人の代理人・代表者として、会社と取引をしようとする場合(直接取引)と、②会社が取締役の債務を保証する等、取締役以外の者との間で会社・取締役間の利害が相反する取引をしようとする場合(間接取引)があります。
取締役の利益相反取引の承認は、個々の取引についてなされるのが原則ですが、関連会社間の取引のように反復継続して同種の取引がなされる場合については、取引の種類・数量・金額・期間等を特定して、包括的に承認を与えても良いとされています。
4 取締役会に報告すべき重要な事実とは
重要な事実とは、承認の可否の判断に必要な事実であり、単発の取引であれば、目的物・数量・価格・履行期間等をいいます。また、競業会社の代表取締役に就任する等のため包括的な承認等を得る場合であれば、当該会社の事業の種類・規模・取引範囲等を開示すべきことになります。
後者の場合、取締役会への事後の報告もある程度まとめて行う必要があります。
5 利益相反行為を行った取締役の責任
このような利益相反に関する規定に違反した取締役は、任務懈怠として損害賠償責任を負うことがあります。特に、取締役会決議を経ずに競業取引を行った場合、当該取引によって取締役又は第三者が得た利益の額は、会社に生じた損害の額と推定されるので、取締役は実際に得た利益よりも多額の損害賠償責任を負うリスクがあります。