取締役会設置会社である当社の株主総会では、剰余金の配当に関する事項だけが議題となっていました。
代表取締役であり株主総会の議長であるYが、「この議題につき何か質問のある人はいますか」と問うたところ、株主Zが、「最近ある人から、Yの女性問題が乱れているとの話を聞いた。このような人間は代表取締役として適切か。」という質問をしてきました。
この場合、Yは、どのように対応すれば良いでしょうか。
(回答)
1 株主総会の運営
中小企業の株主総会は時に、議長の仕切りが不慣れのため、議場が混乱するリスクがあります。
株主総会の議長は、株主総会の開会から閉会に至るまでの間、総会における議事の進行、議事の整理、採決、秩序維持等に関する一切の事項に関する権限を有しています(会社法第315条第1項)。
議長は代表取締役社長がなり、同人に事故があったときは、あらかじめ取締役会で定めた順序により他の取締役がこれに代わる旨の定款を定めている会社が多いと思われます。
2 取締役等の説明義務のリスク
取締役等は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、その事項につき必要な説明をしなければなりません(同法第314条本文)。
もっとも、取締役等はこのような説明義務を無限定に負っているわけではありません。株主総会の議題に関しないものや説明をすることにより他の株主の共同の利益を著しく害する場合等は、説明義務を負いません。
また、説明義務の範囲及びその程度については、株主が合理的に判断するのに客観的に必要な範囲での説明を、平均的な株主であれば合理的に理解し判断しうる程度に説明すれば足りるとされています(東京地方裁判所平成16年5月13日判決)。
なお、株主からの質問が議題に関する適切なものであったにもかかわらず、取締役等がこの質問に応じなかった場合は、株主総会決議が決議取消の対象となったり、取締役等が100万円以下の過料の対象(同法第976条第9号)になるリスクがあるため、注意が必要です。
3 回答
貴社の株主総会における議題は、剰余金の配当に関する事項であるため、これに関係する事項についての質問についてのみ、代表取締役Yは説明義務を負うことになります。
このため、Zによる上記質問は、説明義務の対象にはならないので、Yは上記質問に応じる必要はありません。質問を無視して決議に入って差し支えありません。