当社の従業員は、社長や部長の業務命令に従わないどころか、何故そんなことをしないといけないのかなどと喰ってかかることが度々あったため、懲戒解雇か退職勧奨を検討しています。
どのようなことに注意すればよろしいでしょうか。
(回答)
1 問題従業員の存在
中小企業においては、このような権利意識が強く、業務命令に対してパワハラなどと主張して従わない問題従業員のケースはしばしば見られます。このような従業員を放置しておくと、社内の規律が緩くなったり、他の真面目な従業員の士気の低下にもつながりかねません。
そこで、中小企業とすれば、注意、指導を指導書、警告書などといった書面を用いて行うとともに、従業員が注意、指導を録音しているリスクも踏まえて対応するとともに、懲戒解雇も視野に入れた懲戒処分を検討することになります。
2 解雇権行使の要件
解雇権の行使には、客観的に合理的な理由及び社会通念上の相当性が必要です(労働契約法第16条)。
「客観的に合理的な理由」とは、解雇基準が合理的か、非違行為がその解雇基準に合致するか、非違行為による業務上の支障はどの程度であるのかなどを総合的に考慮して判断されますが、裁判例をみると、「著しい成績不良」とか、「著しい就労能力の欠如」を要求する傾向があるように思われます。
また、「社会通念上の相当性」とは、解雇事由を改善すべく、企業側が合理的な対応をしたかどうかが重視されます。
3 解雇権行使のリスク
客観的に合理的な理由も社会通念上の相当性の要件も、使用者側がここまでやったら大丈夫という明確な線引きができるものではなく、後で労働者側の言い分が認められて、ひっくり返されるリスクがあります。
このため、使用者としては、労働能力や労働意欲を欠いた従業員やご質問のような業務命令に従わない問題従業員に対して強く出られないというジレンマがあります。
4 退職勧奨のリスク
中小企業とすれば、解雇については、その有効性が不明確なため、問題のある従業員に対して、退職を勧奨することになります。
しかし、退職勧奨が不法行為とされるリスクがあります。
例えば、傷病休職者の復職の際に、上司5名が約4か月間に約8時間にわたったものを含め30数回の面談を行い、「能力がない」、「別の道があるだろう」、「寄生虫」などと発言したほか、大声を出し、机を叩くなどし、労働者の同意なく寮に赴いたなどの場合に、慰謝料として、80万円の支払いを命じたケースがあります(大阪高判平成13年3月14日判決)。
この裁判例の事案はいささか極端な感じがしますが、中小企業としては、行き過ぎた退職勧奨にはリスクがあることを十分に理解する必要があります。
5 回答
貴社は、業務命令違反の事実確認とその証拠化、当該従業員への注意とその改善への指導等を踏まえ、戒告、減給等の懲戒処分を段階的に行った上で、懲戒解雇を検討すべきです。
また、懲戒解雇は後で無効と判断されるなどのリスクがあるので、懲戒解雇をちらつかせながら、退職勧奨も検討すべきです。