当社では、ある取締役が特定の株主を優待する商品の供与を行ってきたことが判明しました。
どのようなリスクがあるのでしょうか。
(回答)
1 株主優待リスク
中小企業においても、オーナー一族以外の者が株式を保有することは多く見られます。この場合に、取締役が日頃の感謝の気持ちや株主総会を有利に運びたいなどの理由のため、特定の株主に対して一定の優遇を行って、利益供与になってしまうリスクは十分生じます。
また、中小企業が株主と取引を行うときも、不当に代金を値下げなどしてしまうと、利益供与のリスクは生じてしまいます。
2 株主の権利行使に関する利益供与の禁止
会社法では、会社は誰に対してであっても、株主の権利の行使に際し、財産上の利益を供与してはならず、これに違反した場合は3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処すると規定されています(同法第120条第1項、第970条)。
この点に関しては、会社が株主総会における有効な権利行使を条件として、株主1人に対してQUOカード1枚500円分を交付したケースについて、裁判所は、①株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的で供与される場合であること、②供与の額が社会通念上許容される範囲であること、③株主全体に供与される総額も会社の財産的基礎に影響を及ぼすものでないときは、例外として許されるとされています(東京地方裁判所平成19年12月6日判決)。
3 株主の権利行使に関してとは
会社法が禁止しているのは、株主優待全般ではなく、株主の権利行使に関しての利益供与です。
しかし、同法第120条第2項で、特定の株主への利益供与は株主の権利行使に関してと推定されてしまうので、会社としては、株主の権利行使とは無関係という反証に成功しなければ違法になるリスクを負うことになります。
4 回答
取締役の利益供与が認められてしまうと、その取締役が利益供与罪や特別背任罪等により処罰されるおそれがあるほか、仮にこれらの行為があると、企業の社会的信用を低下させ、さらには株主代表訴訟を提起されるリスクもあります。
したがって、中小企業においても、役職員に対し、利益供与も含めたコンプライアンスに関する研修を行い、過去の事例を通じて、どのような行為が刑事罰の対象となる行為であるのか、あるいは社会的に許されないのかを周知徹底させることが必要です。