当社では、社長がワンマン経営をしていて、会社資産を社長個人の利益のために費消しています。
この先、社長が取引先から責任を追及されることになれば、社長に一切口出しできない平取締役でも何らかの責任を負うことになるのでしょうか。
(回答)
1 取締役の監視義務
取締役会は、業務執行を決定すること、代表取締役の選任・解職の職務を行うこと、個々の取締役の執行を監督することという3つの機能を果たすことが求められています。
こうした取締役会の機能を果たすため取締役会の構成員である個々の取締役は、他の取締役の業務執行を監視する義務を負うものとされています。
2 平取締役の監視義務の範囲
この点に関しては、株式会社の取締役会は会社の業務執行につき監査する地位にあるから、取締役会を構成する取締役は、会社に対し、取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず、代表取締役の業務執行一般につき、これを監視し、必要があれば、取締役会を自ら招集し、あるいは招集することを求め、取締役会を通じて代表取締役の業務執行一般について監視する職責を有するとされています(最高裁判所昭和48年5月22日判決)。
しかし、昭和48年最高裁判所判決以降の裁判例をみると、必ずしも取締役が監視義務を怠ったとして、第三者に対する責任(会社法第429条第1項)をストレートに認めているわけではありません。取締役会に上程されていない事項について、現実に不正行為が発見された場合や、不当な業務執行の内容を知り又は容易に知りうべきであるのにこれを看過したなどの事情がある場合に、取締役の監視義務違反による責任を認めている裁判例もあります。
3 取締役の職務執行のリスク
取締役としての監視義務を果たすためには、事実を調査すること、及び不正があれば是正措置を講ずることが必要です。
取締役として会社の経営に関与していながら、他の取締役の違法又は不当な業務執行を知り、あるいは知り得べきであったにもかかわらず、何ら適切な対応をとることなく見過ごしたことにより、会社や第三者に損害を生じた場合には、平取締役といえども監視義務違反による損害賠償責任を追及されるリスクがあること自体は認識しておく必要があります。
4 回答
判例は、取締役の一般的監視義務を認めていますが、取締役会に上程されていない事項についての監視義務の範囲を限定する裁判例も見られます。
しかし、取締役会の不開催や会社業務に関与していないことが免責の理由となるのであれば、取締役会が機能しない会社であったり、職務に怠慢な取締役であればあるほど責任を問われることがないという結果になってしまい、取締役に監視義務を負わせた法の趣旨が骨抜きになってしまいます。
このため、会社経営に何らかの形であっても関与している取締役であれば、監視義務を怠ったことにより会社又は第三者に生じた損害について、任務懈怠の責任を問われるリスクがあること自体には注意すべきです。