代表取締役Yは、ギャンブルで負けた借金の穴埋めをするため、必要がないのに会社の資産を売却して、その売却金を私的に流用しようとしていることが判明しました。
しかし、当社は、会社資産が売却されてしまうと、事業に重大な支障が出てしまうので、Yのかかる行為を防止したいと考えています。
Yの弟で、当社の専務である私は、どのような措置が採れるのでしょうか。
(回答)
1 専務の採り得る法的手段
まず、専務はYの職務の執行に関し、Yが会社の目的の範囲外の行為その他法令又は定款に違反する行為をするおそれがあり、当該行為により会社に回復することができない損害が発生することを理由に、Yの会社資産の売却の差止請求の仮処分を検討することになります。
しかし、Yは相当金策に苦慮していて、将来的には、どうしても会社資産を売却してしまいそうなので、当該資産の売却を差止めただけでは目的を達成できない可能性があります。
そこで、専務としては、取締役会で、Yを代表取締役から解任するよう取締役会に提案することになりますが、これは他の取締役が反対すると難しいと考えられます。
2 会社訴訟とは
企業法務においては、会社訴訟は重要です。会社訴訟には株主総会決議取消しの訴え、株主代表訴訟、取締役に対する責任追及、新株発行差止請求のほか、本件のような取締役解任の訴え等のさまざまな類型が存在します。
会社訴訟においては、本件のように会社の重要資産が売却されてしまうと、後でそのダメージが回復できないことが多いので、紛争の天王山は時間のかかる訴訟ではなく、仮処分の審尋と決定になることが多いです。
3 取締役としての使命感
専務としては、Yの違法行為を傍観して、会社をみすみす倒産させてしまったのでは従業員やステークホルダーに申し訳が立ちません。また、Yの違法行為を放置していると、自らが会社に対して損害賠償責任を負ったり、他の株主から株主代表訴訟を提起されるリスクも生じます。
親族間においては、話し合いを最優先にすべきですが、中小企業といえども、ケースによっては毅然とした法的対応も必要となります。
4 回答
ご質問のケースでは、専務は、法的手段として、Yが職務の執行に関し不正行為又は法令・定款に違反する重大な事実があるとして、Yの職務執行停止の仮処分、職務代行者選任の仮処分とYの取締役解任の訴訟を申し立てをすることが考えられます。