当社には、従業員が懲戒解雇になった場合には、退職金を支払わないという退職金規程があります。
従業員Yは業務上横領を行ったので、当社は懲戒解雇を行いましたが、退職金支払はないと考えてよろしいですか。
(回答)
1 懲戒解雇イコール退職金不支給で良いか。
中小企業の経営者からすると、従業員が業務上横領といった大それた犯罪を犯した以上、退職金など支払えるはずはないと言いたいところです。
しかし、退職金には、功労報償的性格と賃金の後払い的性格があるとされており、懲戒解雇の事由があったとしても、退職金の全額を不支給とすることができるのは、Yがそれまでの長年にわたる勤続の功を抹消してしまう程の著しく信義に反する行為があった場合に限られると考えられています。
したがって、仮に懲戒解雇が有効であってもなお、退職金不支給の適法性が問題となります。
2 退職金不支給の適法性
長年にわたる勤労の功を抹消してしまう程の不信行為に当たるかどうかは、懲戒事由の内容、背信性の程度、会社が被った損害の内容、程度、在職中の勤務状況、退職金の賃金の後払い的性質の強さ等を総合的に考慮して判断されることになります。
3 退職金に関するリスク管理
企業は、ご質問のように従業員が横領等の非違行為を行うリスクに備えて、退職金の全額又は一部を不支給とする退職金規程を整備すべきです。
また、ご質問に関連して言えば、従業員の退職後に横領の事実が発覚するようなリスクに備えて、退職金支払い期限を不正行為などの発見のための調査期間を置いて退職後数か月に設定しておくことや、退職金支払い後に懲戒解雇理由などが発覚した場合に備えた支払い済みの退職金の返還規定を置くことが必要になってきます。
このように、就業規則には、中小企業がさまざまなリスクに備えてそれをヘッジするために必要なことを規定していないと、中小企業の希望や目的がかなえられないことがあることに留意すべきです。
4 回答
貴社は、就業規則に懲戒解雇事由があった場合に退職金を支給しないという規定を設けていれば、Yに対し退職金の全額又は一部を支給とすることができると考えられます。