営業職に一定額の営業手当を支払っている場合のリスク

(質問)
 当社では、取引先回りを行う営業職に、毎月7万円の営業手当を時間外手当として支払っています。
 しかし、ある営業職のYから、会社の業務命令で遠くまで営業に行き、移動時間中も会社からいろいろ携帯電話やメールで指示を受けたり、取引先に電話をすることがある上、会社に帰ってからも日報を作成して、毎日帰宅が午後10時になるので、実際の時間外労働時間に基づく時間外手当を支払ってほしいと言われました。
 当社とすれば、Yはあまり営業の実績を出していないし、会社の外で何をしているのかわからないので、毎月7万円以上の営業手当は支払いたくないのですが、どうすれば良いのでしょうか。

(回答)

1 営業職の移動時間は労働時間か。
 一般的には、出張の移動時間は、通勤時間と同じで、労働時間にならないと考えられています。
 しかし、貴社のように、従業員の移動中も会社がいろいろ業務の指示を出していたり、従業員が取引先に電話をするという状態であれば、移動時間といえども貴社の指揮命令下にあることになるので、労働時間になるものと考えられます。

2 営業手当と時間外手当の関係
 貴社では、営業手当を時間外手当として取り扱っているようですが、Yの基本給をベースにして、7万円の営業手当が何時間分の時間外手当に相当するのかをきちんと計算する必要があります。
 その上で、Yの実際の時間外労働時間が7万円に相当する時間外労働  時間を超える場合は、残業代を追加して支払う義務があります。

3 事業場外のみなし労働時間制
 外勤の営業職など事業場外で業務に従事した場合で、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間、労働したものとみなされます。ただし、その業務を遂行するためには所定労働時間を超えて労働することが通常必要な場合には、その業務の遂行に通常必要とされる時間、労働したものとみなされるという制度です(労働基準法第38条の2第1項)。
 そして、業務の遂行に通常必要とされる時間は、事業場の過半数労働組合、労働組合がない場合は労働者の過半数代表者との労使協定により定めることとされています(同条第2項)。例えば、事業場外での業務を遂行するために通常は10時間かかるとすれば、事業場外の労働時間は10時間とみなされるという制度なので、実際に10時間を超えると貴社は残業代の支払義務を負うことになります。
 ただし、この制度が適用になるのは、会社の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難なときとされているので、携帯電話やメールなどによって会社の指示を受けながら事業場外で勤務している場合や、事業場で訪問先、帰社時刻等の業務の具体的指示を受けた後、指示どおりに業務に従事して、その後、事業場に戻る場合には適用されないことに注意する必要があります。

4 回答
 貴社とすれば、一定額の営業手当を時間外手当として支払うことは、追加の残業代を請求されるリスクがあります。
 また、事業場外のみなし労働時間制度を適用するためには、Yに対し、貴社の具体的な指揮監督が及ばないように注意する必要があります。
 会社は、携帯電話やメールなどで、事業場外にいる従業員に対して、容易に業務命令を出せることになったので、出張のための移動時間など事業場外の業務が労働時間とされるリスクに注意する必要があります。