当社の従業員Yは、始業時間よりも早く出勤して、終業時間を超えて残 業をしています。早朝は特に仕事をするわけでなく、知り合いの女性と携帯電話で話しているようで、終業時間後の残業も業務に従事することなく、漫画を読んでいるようです。
このような場合も当社は残業代を支払わないといけないのでしょうか。
(回答)
1 時間外労働とは
時間外労働とは、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超える労働をいいます。
所定労働時間とは、労働契約又は就業規則において定められる始業時から終業時までの時間から休憩時間を差し引いたものをいいます。所定労働時間が法定労働時間を超えることは許されませんが、所定労働時間を超えて法定労働時間以内の場合に時間外労働手当を会社が支払わなければならないかどうかは労働契約又は就業規則の規定によります。
労働基準法上の労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう」とされています(最高裁判所平成12年3月9日判決)。労働時間かどうかのポイントは、「指揮命令下にあるかどうか」ということになります。
したがって、始業前の準備や手待時間や休憩時間であっても、指揮命令下と評価されれば労働時間になります。
したがって、いわゆるダラダラ残業は、企業にとっては、作業の実績に見合わない賃金を支払わされるリスクがあることになります。
2 残業代のリスク
残業時間の計算については、企業の指揮命令にあったかどうかが訴訟で争点になることがありますが、この点については、従業員の日記やパソコンのログ履歴等により、容易に認められるリスクがあります。
特に、タイムカードにより労働時間管理がなされている場合は、特段の事情がない限り、タイムカードの非刻時間を基準に労働時間を推定するという裁判所の傾向があることに注意する必要があります。
未払残業代の消滅時効は2年間ですが、ケースによっては付加金も加えた金額が1,000万円近くになることもあります。仮に、数人が残業代を請求してきたら、キャッシュに余裕のない中小企業にとっては大打撃になってしまいます。
以上の次第で、未払残業代のリスクは中小企業にとっては、比較的よくあり得るリスクであり、かつ、ダメージも大きいといわざるを得ません。
3 ダラダラ残業への対策
かかるリスクを回避して、未払残業代を請求されないためには、①労働者の労働時間を正確に管理すること、②悪質なダラダラ残業に対抗して、不要な残業をさせないことが必要です。
4 回答
貴社は、Yが女性と携帯電話で話しをしていたり、漫画を読んでいた時間については、残業代の支払義務はありません。しかし、Yがそれに不服で訴訟を提起してくるリスクがあります。その場合、Yが会社内にいる以上は、貴社が、指揮命令下にないことを反証しないと、実質的に貴社の指揮命令下にあったとか、貴社がYの業務を黙認していたと認定されるリスクがあります。
以上を踏まえると、貴社は、従業員を業務時間外にむやみに会社に居残りをさせないこと、そして従業員が会社にいる時間は会社が指示した業務に完全に服するよう、確実な労務管理を行う必要があります。