当社は、住宅の建築設計、施工を主な事業としていますが、あるお客様が設計図面を持ちこまれ、そのとおりに住宅を建築してほしいと依頼されました。
よく話を聞いてみると、別の業者に依頼して設計してもらったが、建築費用の面で折り合わず、当社に持ち込んだということのようです。
当社でも建築事態は可能ですが、著作権の関係で問題はありませんか?
(回答)
1 設計図面と建築物の著作物性
本件では、他人が作成した設計図面を複写したり、それをもとに建築物を建築したりすることが問題になると考えられます。
著作権法上、設計図面は「図面の著作物」として、建築物自体は「建築物の著作物」として保護されます。
2 著作権者としての権利
「保護される」ということは、次のことを意味します。
つまり、著作物を創作した者は、著作者となり、著作権を取得します。
そして、この著作権の一つに、複製権があります。
複製権は、著作権者が占有しているため、他人が無断で複製することはできません。
著作権者は、著作権を侵害された場合、侵害の停止や損害賠償の請求をすることができ、また、著作権を侵害されるおそれがある場合には、差止請求をすることもできるのです。
では、本件で、これらの請求が認められる可能性があるのでしょうか。
3 設計図面の複写
複製とは、「印刷、複写等の方法により有形的に再製すること」をいいます。
したがって、他人が作成した設計図面を複写すれば、「図形の著作物」の複製となり、損害賠償請求の対象になることは免れないでしょう。
賠償額は、設計費用相当額が一つの目安となりそうです。
4 建築物の完成
また、著作権法上、他人が作成した設計図面に従って建築物を完成させることも、建築の著作物の複製になると定められています。これに該当すれば、損害賠償請求や、工事の差止め請求が認められる可能性があります。
しかし、建築物がすべて「建築の著作物」となるわけではありません。建築美術といい得る建築物でない限り、「建築の著作物」となるわけではありません。
建築美術といえるかは、機能性・実用性を追求した建築物ではないかどうか(実用本位ではない建築物か)という観点から検討されます。
本件の建築物は、建築業者が一般の住宅として設計したものですから、実用本位の建築物ではないなどということは、あまり考えられません。
したがって、本件では、別業者が作成した設計図面に従って住宅を完成させても、著作権法違反を根拠として損害賠償請求や工事の差止請求が認められる可能性は、ほとんどないといえます。