最近、兄が亡くなったのですが、兄は独身で両親も既に他界していたため、私が唯一の相続人となりました。 しかし、兄とは長年折り合いが悪く疎遠だったこともあり、先日相続放棄の手続をとりました。
兄名義財産が残っている状態なのですが、相続人がいない場合これらの財産は国のものになるのでしょうか。兄が住んでいた家は老朽化しているのですが、放置しておいても大丈夫でしょうか。
(回答)
1 相続放棄をしても続く管理責任
相続人は、相続財産に対して権利を持つだけではなく、これを管理する責任も負っています。この点、相続放棄をした人は法律上最初から相続人ではなかったものとみなされますから、相続財産の管理責任からも解放されるように思います。
しかしながら、民法は、相続放棄をした場合でも、他の相続人によって相続財産が管理されるようになるまでは自己の財産と同一の注意義務でその財産を管理する義務を負うと定めています。
相続人は、相続放棄をしただけで当然に相続財産を管理する責任から解放されるというわけではないことに注意が必要です。
2 相続財産管理人とは
では、相続放棄によって誰も相続人がいなくなる場合はどうなるのでしょうか。
この場合、相続放棄した人は、相続財産管理人が相続財産を管理するようになるまで管理義務を負うと解されています。
相続財産管理人とは、亡くなった人に相続人がいない場合にその財産を管理する権限を持つ者で、家庭裁判所が審判によって選任します。相続人がいない場合に必ず選任されるわけではなく、債権者や特別縁故者などの利害関係人または検察官が申し立てた場合にのみ選任されます。
今回のケースでも、相談者は相続財産の管理責任を負っていますので、財産の管理不足によって他人に損害を与えた場合には損害賠償義務を負うおそれがあります。そのため、建物が老朽化して倒壊するおそれがある場合には周辺に被害を及ぼさないよう解体工事や補強工事をしたり、雑草が生い茂って害虫被害が生ずる場合には除草や駆除を行うことなどが必要となってきます。
このような義務から免れるためには、相続放棄をするだけでなく、相続財産管理人を選任した上で財産の管理を引き継がせることが必要になるのです。
3 相続財産管理人の役割
相続財産管理人の職務は、相続人や相続財産の有無を調査し、相続財産を管理、換価して、亡くなった人の債務を債権者に支払う等して清算することです。
相続財産管理人は、債権者への支払いや受遺者への財産の移転をして相続財産を清算してもなお残る財産がある場合、亡くなった人に特別縁故者がいれば、特別縁故者に財産を分与します。
相続財産管理人は、これらの業務が終了したときは家庭裁判所に報酬付与の申立てを行い、裁判所は相続財産管理人の報酬額を決定します。
そして、最終的に誰も引き継ぐ人がいない残りの相続財産は、国庫に帰属させることになります。