当社では、緊急の顧客対応などに備えて、従業員に対して対体制で休日の自宅待機を命じております。そして、呼出しにより出動があった場合にのみ賃金を支払うこととしております。
しかしながら、この度、社内で、待機を命じている以上は出動がなかった場合でも賃金を支払う必要があるのではないかという議論が生じました。
法律的には、自宅待機に対して賃金を支払う必要があるのでしょうか。
(回答)
1 自宅待機は労働時間ではない
待機時間に対して賃金を支払う必要があるのか否かは、待機をしている時間が法的にみて労働時間といえるか否かという問題です。
ここで、労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間をいうと解されています。そうすると、会社の指揮命令権に基づいて自宅待機を命じられている以上、待機時間は労働時間に該当するようにも思えます。
しかしながら、急な呼出しに備えた待機時間といっても、自宅待機の場合には、実際に呼び出されない限り、基本的にどのような過ごし方をするかは労働者の自由です。
そのため、基本的には自宅待機の時間は労働時間には当たらないと解されています。
確かに、呼出しがある場合に出勤できる場所にいなければならないことや、外出する際は連絡用の携帯電話を持つ必要があること等の一定の制限はありますが、そのことのみでは、使用者の指揮命令が及んでいるとまでは評価されないのです。
2 待機時間が労働時間に該当する場合
自宅待機の場合は基本的には労働時間には当たりませんが、緊急の場合の待機時間がすべて労働時間に該当しないというわけではありません。
場所的拘束や行動の制限の程度、業務と待機時間との関連性等の事情を総合的に判断して、使用者の指揮命令が及んでいるといえれば、労働時間に該当することになります。
裁判例では、24時間勤務でビルの警備・設備運転保全業務を行う会社における労働者の仮眠時間について、労働時間性が認められたものがあります。この事案では、事業所内での待機である上、警報が鳴った場合は設備の補修等の作業を要することから、実作業に従事していない時間も含め全体として従業員が使用者の指揮命令下に置かれていたと判断されています。
3 待機手当について
自宅待機の時間が労働時間に当たらない以上、今回のケースでも賃金を支払う必要はありません。
もっとも、従業員の休日の過ごし方について一定の制約を課すことになるため、自宅待機命令の実効性を担保する趣旨で、一定の手当を支給することは有益です。
待機手当の額について決まりはありませんが、2,000円~3,000円程度が一つの目安でしょう。
宿・日直の許可基準として、手当の額が1日の平均賃金の3分の1を下らないこととする行政通達があることから、1日の平均賃金の3分の1を上限にして待機手当の額を設定するもの一つの方法かと考えます。