以前新聞で、とある訴訟を提起した弁護士が提訴が問題だったという理由で懲戒審査にかけられたという記事を見ましたが、こういったことはたまにあるのですか?
(回答)
1 事件の概要
アダルトビデオ出演を拒否した20代の女性に所属事務所が約2400万円の損害賠償を求めた訴訟をめぐり、日本弁護士連合会(日弁連)が、所属事務所の代理人を務めた60代の男性弁護士について「提訴は問題だった」として、「懲戒審査相当」の決定をした。
懲戒請求を行ったのは、男性弁護士や女性と面識がない男性。所属先の弁護士会では提訴は正当とされたが、その後男性は日弁連に異議を申し立て、日弁連が所属先の弁護士会での決定を取り消し、懲戒審査となった。
2 弁護士の仕事とは
弁護士の立場から言わせてもらうと,もし懲戒処分が下ったら非常に憤りを感じます。弁護士っていうのはあくまで依頼者の代理人なんです。国民が持つ「裁判を受ける権利」を代理し,裁判所に判断を求めるのが弁護士の仕事なんです。
もし提訴や訴訟内容を理由に懲戒されるリスクを弁護士が負うようになり,依頼者に善悪を求めるようになったら悪人は弁護士を雇えないということになりますよね。これでは憲法違反になってしまいます。
たまに,「弁護士は,有罪だなと思っている依頼者でも無罪を主張するんですか?」という質問をされることがあります。
全ての弁護士がそうという訳ではないと思いますが,私は,有罪だなという場合,後々辻褄が合わなくなってもいけませんので,私自身納得できない旨を伝えて,問題点についての説明を求めます。その説明も納得がいかないときは,さらにその旨を告げて,且つ裁判所を説得するのは難しいことを説明します。それでも依頼者が無実を主張する場合は,私は辞任しますね。
3 弁護士はなぜ犯罪を犯した悪人の弁護をするのか
悪人かどうかはともかくとして,たまにそのような問いかけを受けます。
まず,弁護しているその人が本当に犯人かは裁判を通じて初めて決まることです。犯人扱いされた人が実は無実だったという冤罪事件はたまにあります。なので,本当は犯人ではない事実を裁判で明らかにするために,弁護士による弁護活動が必要になります。
もっとも,そうした冤罪事件はかなり例外で,多くの場合は間違いなく犯人でしょう。
しかし,そのときでも,その人が罪を犯すにはそれなりの事情があり,そうした事情や,十分反省していることなどを裁判で明らかにし,過重な処罰を受けないようにすることも大事です。凶悪犯罪を犯したとして社会全体から厳しい非難を受けている人にこそ,唯一の味方ともいうべき弁護士の弁護が必要なのです。
4 今回の懲戒問題の今後について
「弁護士職務基本規程」では一定の制限が設けられています。
弁護士職務基本規程(2005年4月1日施行)
(不当な事件の受任)
第三十一条
弁護士は、依頼の目的又は事件処理の方法が明らかに不当な事件を受任してはならない。
今後,提訴自体が懲戒対象になっていくのか,それはどういった基準なのか,とても興味深いです。