盗まれた自分の自転車を持ち帰ったら犯罪?ー自力救済とはー

(質問)
 私の自転車が盗まれて探していたらたまたま駅で発見しました。
 乗って帰っても問題ないですか?
 

(回答)
 

1 勝手に持ち帰れば窃盗罪?
 盗まれた自分の自転車をたまたま発見したとしても、勝手に乗って帰ってはいけません。なぜなら、自転車の所有権は自分にありますが、一時的に他の誰かに占有されている(事実上、支配下に置かれている)状態にあるからです。他人が占有しているものは他人の財物とみなされるため、勝手に持ち帰れば窃盗罪になります。

 刑法第242条(他人の占有等に係る自己の財物)
 自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。

 

2 自力救済とは
 しかし、悪いのは自転車を盗んだ人ですし、盗まれた物を取り返すだけで犯罪になるのは納得いかないと考える人もいるかもしれません。しかし、侵害された所有権を守るためには、法的な手続きを踏まないといけないのです。自分で実力を行使して権利回復する行為は「自力救済」と言われ、原則的に禁止されています。
 禁止されている理由として、私力による権利の実現を認めてしまうと、権力・財力・腕力といった「力」のある者が正義ということになってしまい、場合によっては暴力的な権利行使がなされる可能性があり、社会秩序が混乱する恐れがあるからです。
 自力救済を行ってしまったら、民事上の不法行為責任を負うか、窃盗罪などの刑事責任を負う可能性もあります。
 

3 損害賠償責任を負った裁判例
 大阪高等裁判所昭和62年10月22日判決
 公団住宅から約定に反して無断転居し、賃料の不払いがあった賃借人の部屋に公団職員が立入り、残置物を搬出廃棄し、賃借人が損害賠償請求をした事件。
 処分された残置物のうちには、代替性がなく、特別の主観的価値を有する記念アルバムの無断廃棄が含まれ、かつ、自己のかつての居住場所であり、現に家財道具等を保管しその占有を保持しえいた建物を無断で開け放たれ、よつて、一種のプライバシーを侵される結果となったとみられることから、相応の精神上の苦痛を覚え、また人格ないし名誉毀損が損なわれたと解されるとして、2万円~5万円の慰謝料及び1~2万円の弁護士費用相当額の損害を肯定した。

 この事例では、慰謝料及び弁護士費用のみが許容された場合なので許容額は比較的低額にとどまっていますが、賃貸人が処分した残置物に高額な動産が含まれており、賃借人がその存在を立証したような場合には、当該動産の価値相当額の損害賠償責任が肯定される可能性があります。自力救済はなかなか認められにくいので注意が必要です。
 

4 自力救済が認められる場合
 なかなか認められにくい自力救済ですが、侵害が切迫していて、かつ、後で権利を実現することが困難となる事情ややむを得ない事情がある場合には、例外的に自力救済が許される場合があります。
 横浜地裁昭和63年2月4日判決
 マンションの目の前に自動車が3ヶ月間停めっぱなしの状態にあり、ある住人が再三にわたり督促したものの名義人は意図的に車を移動させなかった。故意に置きっぱなしにしてあると判断し、しびれを切らした住人が車を処分したところ、その所有者が損害賠償請求の訴えをおこした。裁判所は「やむを得ない特別の事情」があるとして損害賠償請求を認めなかった。
 

5 盗まれた自転車を発見した場合の対応
 警察に通報して現場に来てもらった方がいいですね。警察の立ち合いのもと持ち帰りが許される可能性や、盗品として届け出ることで後日返却が受けられる可能性があります。ちなみに、ちょっとコンビニで買い物をしている隙に自転車を盗まれて、いままさに犯人が立ち去ろうとしている現場を目撃し、その場で自転車を取り返す行為は正当防衛なのでOKですが、盗難から数日後、盗んだ自転車に乗った犯人を見かけても、勝手に取り押さえれば自力救済として違法になるので気をつけないといけません。